開幕、『新しい世界』②
「だ、大丈夫ですか!?」
頭を抱えた俺の姿に少女が慌てて駆け寄ってきてくれる。紛れもなく俺の体を心配してくれの行動だということは分かる。だが、俺は受け入れがたい現実に、少女の気持ちまで考えている余裕はなかった。
「なんでこうなる……、いっその事死んだ方が可能性あったじゃないか」
少女は傍でビクついた様子を見せる。それはそうだ。助けた相手が死にたがっている言動を発すれば、助けた方だってどうしたいいか分からなくなる。
しかし、それも一瞬のことで少女は踏み込んできた。
「そんなことありませんよ。死んでしまっては、家族の方だって心配になります」
おそらく少女は決意をもってその言葉を選んだに違いない。ただ純粋に相手の事を想っただけ。だからこそ、この時の俺の反応は最低だった。
少女の言葉によって思い出される自分の家族たち、今はどうしているのか知る事が出来なくなった存在が思い出されることによって、「お前に何が分かる」という名の殺気を込めた鋭い睨みが少女を捉えた。
俺だって好きでこんな状況に追い込まれたわけじゃない。しかも、現実的にはどうすればいいかなんて例もあるはずもなく、帰り道すら分からないのだ。そんな人間に対して有り体な言葉など傷口にナイフを突き刺すようなものだ。
「あ、あの……、その……」
少女は怯える姿で一歩二歩後退した。小さな女の子がその少女の姿に、前に出ると全身を広げ少女を守るように立ち塞がる。女の子だって怖いのだろう、小さい体を震わせながら、それでも俺の睨みを全身で受け止めるように、俺の目をまっすぐと見つめ返す。
どこか懐かしさを覚えながら、ようやく俺は自分が何をしでかしたのか理解した。
この人たちは何も悪くない。それどころか、見ず知らずの他人を家に上げ、倒れていた俺を助けてくれた、いわば命の恩人なのだ。その恩人たる人たちに、事情は知らないとはいえ当然の事を言っただけに過ぎない。
そうなると、今度は俺が怯える番だった。
世界に帰りたいという思いも、元の姿に戻りたいと思う気持ちもある。しかし、こうなってしまえば、俺は行くあてもなければ、どうしたらいいのかさえ分からないのだ。
ガタガタと全身が震え出す。
そんな姿に少女は再び俺の心配をして一歩踏み出すが、前に立っていた少女によってすぐには辿り着かない。その一瞬の間に、何が起きていたのか全く理解してなかったリンが片方の拳を丸めポンと手を叩いた。
何か妙案を思いついたように合わされた手と手。
「おなかがすいたからゴハンにしよう」
しかし、そこには案など何もなかった。ただ純粋に起きる生理現象で空腹を満たしたいがために、言っただけ。
ポカンとした空気が一気に部屋中を駆け巡った。
少女と初めて睨み以外で目が合う。
「くすっ」
「ははっ」
初めて和やかな空気になったに違いない。それに気が付いたのだろう、女の子は慌てたように言葉を発した。
「うんっ、そうだね、お腹すいたよ。みんなでゴハンにしよう!」
「あ、こらスズ、僕が最初に言ったんだぞ!」
「べーっだ」
幼い小さな兄妹喧嘩、そうか、この二人、太陽と月に似ているんだ。
「はいはい、ケンカしないで、みんなでゴハンにしよう」
少女が二人を宥めながら背中を押していく。その最後、俺の方を振り向いた。
「皆で食べませんか?」
本当に俺は助けてもらってばっかりだ。
「はい、ごちそうになります」
「はい!」




