身支度
「さっぱりした」
虹色は濡れた自分の髪を乾かしながら、言いました。
彼女は既に管理人から貰った服を着ていました。
膝よりも下で、レースがたくさんついているワンピース。
綺麗な緑と青を混ぜ合わせた色。
ドライヤーのスイッチを切り、乾いていない場所はないか、と確認しました。
「よしっ、乾いたわ。
どう結ぼうかしら」
一つ、大きく頷きしばらく考えこむと、目の前に置かれているブラシを手に取り、髪をまとめ始めました。
髪を緩く結び、上に一つにまとめて、髪ゴムの代わりに薄い青色のリボンを使いました。
しかし、髪の毛が一部、はみ出ていたのでもう一度結び直そうとしました。
「う、上手くまとまらない」
上手くまとめようとすればするほどに、髪の毛はボサボサに。
自分の長い髪の毛をこれほどまで呪ったことはない。
髪をまとめるのがここまで面倒だとは知らなかった。
虹色は溜め息を吐きました。
5分ほど格闘していたが、まとまらなかったので諦め、昨日と同じく髪を下ろすことにした。
昨日付けていたリボンも今日は
「本当に、消えないわよね?」
虹色は自分の身体を鏡で確認しながら呟く。
色は自分に合わない色を身につけると、10秒たつと自分の髪の色から消えて行くらしい。
10秒見つめたが、虹色の身体は消えなかった。
「よかった……。
っと、急がないと時間に間に合わないわね」
安堵の息を吐くと、同時に部屋の時計が7時45分と示していたのに気付く。
虹色はもう一度、鏡で変なところがないか確認。
うん、大丈夫。
平々凡々な、いつも通りの私だ。
時間が少しずつ、迫ってきていた。
虹色は急いで、玄関に向かい、下駄箱から靴を取り出す。
洋服に合わせて、青いリボンがあしらわれたサンダルを履く。
履き終わり、立ち上がると同時にノック音が聞こえた。
「あら、どなたかしら」
ゆっくりと歩み寄り、ノブを回す。
静かに開いた扉の隙間から見慣れた顔が見えた。
赤い髪に赤い目、昨日お世話になった人だった。
「カーディナルさん!」
「おはよう、虹色さん。
調子はどうだい?」
「昨日はぐっすり寝てしまいました。
ようやく身支度が済んだところですわ」
カーディナルは虹色の様子を見ると、安堵した。
見知らぬマンションで不安で困ってるのではないか、と心配していた。
少し心配になって迎えに来た、とかは言えなかったが。
寧ろ自分が寝不足になった、なんかはもっと言えない。
「じゃあ今から管理人の所に行くんだな?」
「えぇ、なんとか時間に間に合いそうで良かったですわ」
「そっか」
微笑みを浮かべた虹色は昨日と比べて、少し明るく見えた。
身に付けていた洋服の関係もあるかもしれないが、そう見えた。