赤色の名前
カラーパレットに向かう道を二人で歩きます。
道は虹色のドレスのように色鮮やかなタイルが敷き詰めてありました。
周りには、人間の住んでいる世界の植物とは明らかに違うものが綺麗に生えていました。
色鮮やかなそんな道を赤色が先に歩き、後ろを虹色が歩きます。
歩き出してからしばらく経って、虹色が赤色に話しかけました。
「赤色さん」
「ん?」
「質問、いいですか?」
「質問?
あぁ、俺の答えられることならいいけど」
赤色は首だけを虹色の方に向け、不思議そうな顔をしました。
虹色が話しやすいように、赤色は歩く速度を落としました。
「赤色さんのこと、なんて呼べばいいんですか?」
「あー、うん。
そうだな…」
確かに、ずっと赤色赤色って呼ぶのはあれだよな。
そう思い、赤色は前を向きしばらく考えました。
考えがまとまったのか、再び虹色の方へ首を向け言いました。
「…カーディナル」
「カーディナル?」
聞き返された赤色は止まって振り向き、虹色と向かい合いました。
少し照れくさそうに頭をかきながら、けれどハッキリした口調で言いました。
「カーディナルっていうのは、英語で真紅っていう意味なんだ。
ほら、俺の目の色って真紅だから、それを見たカラーパレットの管理人がこの名前をつけてくれたんだ」
そういうと、カーディナルは恥ずかしそうに目を逸らしました。
カーディナルの目は真紅に染まり、まるで真っ赤な薔薇のようでした。
なるほど、と虹色は数回頷きまた微笑みました。
「綺麗な名前ですね」
綺麗な名前、と言われカーディナルの色素はまた少し濃くなりました。
カーディナルはそんな中、あることに気付きました。
そして、目線を虹色へ戻し、じっと見つめました。
虹色はそんな彼の視線に首を傾げました。
「どうかしましたか?」
「いや…あのさ、虹色さんは名前ないのか?」
「へ?
名前?」
「ほら、前の住んでいた所で、管理人に名付けてもらわなかったのか?」
そう聞かれると、虹色は俯きました。
少し見えた表情は困っていました。
まずいことを聞いたか。
カーディナルは虹色の様子を見て、焦り始めました。
こういうときはどうすればいいんだ。
頑張って彼は打開策を見つけようとしましたが、元々、他人の思ってることを推測するのが苦手だった彼は、的外れな考えばかりを思いつきます。
そんな焦る彼を知ってか知らずか、虹色が口を開きました。
「カーディナルさん」
「え、あ…な、何?」
カーディナルは、考えるのを辞め、虹色の次の言葉を待ちました。
虹色は少し困ったような笑顔を彼に向け、それから少し俯いて言いました。
「私、昔の記憶がないんです」
「…え?」
聞き返され、虹色はふう、と息を吐いて、もう一度ハッキリと繰り返しました。
「私には、前に住んでいた所の記憶が無いんです」
困ったような笑顔は、どこか悲しそうでした。