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File7 仲間と決意

 2012年 5月某日


 再生不良性貧血の治療法は二つある。一つは正常で、自分の型と合致する骨髄を移植する方法と、ウサギの体液で作った薬剤を投与するATG療法だ。


 マーベリックは幸いか不幸か、親族に自分の型が合う骨髄を持ち合わせる人物はいなかった。もし、いたら自分の体に合わすとか何とかで、ベッドでこれを書く羽目になっていただろう。だが骨髄移植は完治する確率が高いのがメリットで、若い人に一番適した治療法だった。


 脊髄バンクを使うという手もあったが、それだと遺伝子レベルの拒否反応が起こる危険性があったからATG療法に4月の暮れに決まった。


「本格的に治療が始められるのはゴールデンウィーク後ですね」


「え、いつやるんですか?今でしょ」

 

 堀川先生に僕は聞き返した。普通、今でしょ?(マーベリックはこのとき病室でT進ハイスクールの衛星講座を受けていた)


「製薬会社がゴールデンウィークはお休みなので」


「あ、はい……」


 その旨を報告した堀川先生の次は、今日の日中看護を担当する事になった井上さんが一番ベッドに輸血にやって来た。


 少し痛い点滴針の注射し終わった後に彼女は僕に興味深い状況を提供した。


「ねぇ、1/1バルキリーの展示会が池袋でやるんだって。知ってる?」


 2012年は僕にとって大切な年号だ。あるモノの生誕30周年……そう、マクロスシリーズの30周年なのだ。30周年となれば何か大きい動きがあるはずだと信じていた。


「で……機体は?何が展示されるんですか!?」


「25Fのファイターガウォーク」


「はい!?」


 この組み合わせは僕にとっては味の薄い味噌汁のように微妙な感じだった。VF-25は最新作の「マクロスフロンティア」の主役機であまり僕の好みではない。マーベリックとしてはVF-1が妥当なラインだと予想したが外れた……そして、何よりも微妙なのは展示される形態だった。


 ファイターガウォーク。ロボットと戦闘機の中間に位置すガウォークの更にそれを戦闘機に近づけた形だった。今回展示されるのは戦闘機に手が生えたバージョンの形態だった。


「え……ビミョー」


「私も同じだよ……やるならガンダムみたいに人型バトロイドが良かったのにね。でも、物販やレアなグッツの展示もあるよ」


 ほう、なら行く価値ありか。そう判断した僕は井上さんに


「退院させてください!!」


「無理だよ。退院は」


 見れないのか!!期間限定のイベントなので、これを逃したらもう行けない。しょんぼりした僕に井上さんは希望の光を差し出した。


「でも、外出許可は出せるかも」


「まじすか!?それお願いします」


「じゃ、先生に相談するね」


「ありがとうございます!!あのイベントにいければ思い残すことなく死ねます」


 その数時間後、堀川先生は夕食を済ました僕に3日間の外出許可をくれた。ただし、人ごみのある場所には行ってはいけないという条件付で。まぁ、数値も安定していて具体的な治療も待たねばならないので当然とも言える結果だった。



 ゴールデンウィークは充実していた。お風呂にも毎日入れたし、マクロス展にもいけた。マクロス展の話はしたいが、ここでやったら本題からずれるのでまたの機会に話したいと思います。でも、言えることは……俺はあの時、猛烈に感動した!!


 一時退院?の最終日。僕は高校の体育祭に行った。僕が外出許可を求めたのはマクロス展もあったが、これも大きかった。


 高3の体育祭……僕にとっては人生で最後になるはずだった体育祭。その日をベッドで過ごすより、競技に出れなくてもいいからその場にいたかった。そんな淡い期待と共に行った体育祭は人生で忘れる事も出来ない、良くて寂しい思い出になっている。


 朝の8時に学校へは母と行き、菌をもらわないように息苦しいマスクを着けて行った。でも、みんなに会える。そう思うと息切れも貧血も何とも無い。頭がくらくらしてもその一心で階段を上って、皆の待つ教室へ向う。


「あ、マーベリック!!」


 教室に入るとみんなの温かい歓声が僕を包んだ。


 嬉しかった。


 みんな、心配そうに僕の元へ来て「大丈夫?」「いつになったら退院できるの?」とか色々と聞いてくれた。人と話すのが大好きな僕はみんなの好意が嬉しかった……でも、ここが僕のいる場所なのに何でここにいれないのだろう?そう思うと少し寂しさが胸に陰りを残した。


 9時に開会式。担任の計らいで来賓席からその様子を見物した。感想は、校長の話は通常運行でつまらなかった。でも、意外と新鮮に聞けた。


 開会式の後はまさにお祭りだった。徒競走やリレー、綱引きや棒倒し……みんな楽しそうに汗を輝かせていた。でも、僕は来賓席でただそれを見ているだけだ。毎年一位をとった障害物走やいつも騎手をやって十八番の「小手返し」で多くの敵を屠った騎馬戦を見たときに妙な冷たさを感じた。


 みんな楽しそうなのに……まるでよそ者みたいだ。


 来賓席。それは校外から来たお客様が座る席。つまり生徒が座るべき場所ではない。なのにそこに縛られ、よそ者扱いされる……それが寂しくて悔しかった。


『次は国際科のハカです!!』


 テンションの高い放送委員のMCがそう放送を流すと、僕はびくりとした。国際科は英語が得意な生徒が集まる場所で、僕の場所だ。


 ハカ――国際科と交友する国であるニュージーランドの原住民族であるマオリの戦いの前に行う踊りで、ニュージーランドのラグビーチーム「オールブラックス」が行うので有名だ。興味のある方は是非見ていただきたい。


 最初は女子20人の歓迎の踊り。ふくよかなマオリ人女性を体現で来ていて


 20人の男子がグラウンドに現れ陣形を取る。普段は気の良い奴らだが、この時は目が違っていた。マオリの戦士の魂がのり移ったようだった。


「キャンマオ!!」


「ヒィ!!」


 ハカリーダーのかけ声と共に男たちは轟々と鬨の声を上げ、戦士の舞を始めた。体を打ち付ける音や戦士の雄叫び。小柄な奴でも巨体を持つマオリ族のように見えた。精魂こめてやっているのだ。当然である。


 終わると彼らを1000を超す拍手を包んだ。包まれた彼らは本当に輝いていて、満ち足りた様子だった。  


 それを見ていると悔しかった。


 俺はあそこにいるはずだったのに……みんなと一緒に達成感を分かち合ったのに……


「畜生」


みんなが遠くなった気がした。僕はかやの外からみんなを見ることしかできない。わけの解らない病気のせいで……


『国際科のみなさん、何か一言』


放送委員のマイクを受けとったのはクラス委員で女子の踊りのリーダーだった加藤さんだった。


『えーと、この踊りは体育祭にお越し戴いた方々とある人のエールの為に踊りました』


『ある人?』


『私達の仲間の一人で、辛い病気と戦っている……マーベリック君の為にです』


え……


『そうですか……マーベリック君にそのエールが届くと良いですね!!』


僕は気づいたら走り出していた。


ヘモグロビンが足りないせいですぐに息が切れても走り続けた。彼らが通る退場口へ。


「俺はここにいるぞ!!」


 インタビューが終わり戻って来るみんなにハイタッチした。

 

 みんなハイタッチすると口々に「負けるな」とか「頑張って」と声をかけてくれた。


彼らの手に触れる度に僕の視界はぼやけ始めた。


「どうだったウチらの踊り?」


最後にハイタッチしたのは加藤さんだった。


「最高だよ」


「病気なんて早く治して戻ってね!!」


「あぁ……絶対に!!」


 ハカ……それは戦いの前に自身や仲間を鼓舞する為の踊り。彼らは踊ってくれたのだ。長く辛い病気との戦いを始める前の僕の為にハカを。


体育祭の後、僕達は記念撮影をした。


最高の仲間と取った写真は僕の戦への道標であり永遠の宝物だ。


  高校最後の体育祭は参加出来なかったけど最高の思い出として今もマーベリックの胸に刻まれている。

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