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File Omake マクロス展

 2012年。これはある作品の30周年記念の年だ。


 作品の名前は『超時空要塞マクロス』。マーベリックが一番好きな作品群であるマクロスシリーズはこの年に30周年を迎えた。


 そして、2012年4月29日。これは忘れるに忘れられない一日となった。


 仮出所を果たしたマーベリックは4月29日に親に頼み込んで、マスクを絶対に外さない事と午後2時という門限をキチンと守ることで、近所の小学校以来の親友と池袋の『マクロス展』へ行くことが許された。


 お目当ては1/1バルキリーでもあるが、物販の30周年記念の品々だ。スカル(初代)小隊のTシャツやカップなどほしいものは色々とある。


 にやけ早る気持ちを抑えながらマーベリック達は戦場へと向かった。


 マクロスシリーズ。僕がこの作品に出会ったのは小6の頃だった。当時、ガンダム派だったのだが、『ガンダムSEED』なる作品を見たせいでガンダムに嫌気をさしてしまい、新しいジャンルを開拓への決意をするに至った。


 その旅で辿り着いた先が『マクロスゼロ』だった。


 幼少より戦闘機好きのマーベリックは表紙のカッコイイVF-0に惹かれてこの作品を見たが、内容も自分が求めていたモノに近く文字通りマクロスにはまってしまった。その後、一気に初代から7まで見て、長老的なファンにも認められ程のマクロスヲタへと昇華したのであった。


 好きなキャラはロイ・フォッカー少佐とシャミー・ミリオム少尉。全部の作品を通して好きなヒロインはサラとランカ。好きな機体はYF-19、VF-0Dと25Fのトルネード・パック仕様。好きな歌は7の「Submarine Street」とFの「インフィニティ#7」……マクロスと着く作品は全般的に好きである。


 僕は奮発して通常チケットより高い、ミンメイ、シェリルとランカが描かれたタオルがついて来るプレミアチケットを購入した。


 マクロス展は僕にとって天国と呼ぶに値する場所だった。歴代シリーズの限定グッズや、1/1スケールヒロイン達のフィギュアの展示。マーベリックのテンションはイサムが「イヤッホー」と叫ぶくらいに高まった始末だった。


 だが、一番の見所は紛れも無く1/1スケールバルキリーの展示だった。


「25か……」


 救世主の名を冠された機体は、少し汚れがかかった純白のボディーの周りを整備器具が取り囲んでいて、それは作戦終了後の整備を行っている風情だった。できればVF-1が見たかったが、VF-25もこう見ると『美しい』かっこよさがあった。


「む……これは!!」


 VF-25の展示に皆目が行っている中、誰も目もかけない場所にそれらはあった。そう、歴代のバルキリー隊のエンブレムの展示コーナーの隅っこにあったのだ。


「うぉ……こらマニアックなことで……」


「……お前、とんでもない所に目がいくな」


 見物者ゼロの展示品を感慨深く凝視しているマーベリックを友人は呆れた様子で見ていた。


 ――――そんな品々を見ていると自分が病気であった事が忘れられる事ができた。いつものリビングでポテチとコーラを片手に趣味にふけっていた頃を思い出してしまったのだ。


 展示ブースを回り終わったと僕と友人は物販コーナーでお土産を購入することにした。自分は30周年記念のグッズとスカル小隊(初代)のTシャツと薬を飲む時に使うステレンレスのカップ、これもまたロイ・フォッカー使用を購入した。井上さんにも何か買おうとしたが職務規定的にまずそうだったから買えなかった。


 物販コーナーで買い物を済ました僕たちは人だかりを見つけ、興味本位でそこに立ち寄った。


「うお……」


 人だかりの視線が集中する先、そこにはシェリルとランカのコスプレをしてノリノリでフロンティアの楽曲を声高らかに熱唱している人たちがいたのだ。そう、マクロス名物の『歌』を楽しむ会場……カラオケコーナーだ。とりあえず面白そうだからしばらく見物することにした。


 しばらく聞いているとマーベリックは気づいてしまった。


「おい……これって……Fしばりでもしてんのか?」


「さぁ?やっぱFが人気だからかな?」


 Fしばり……Fの歌しか歌っちゃいけないと言わんばかりに皆様、歌ってましたね。そして、司会のお姉さんも痺れを切らして


「では、次は……7の曲歌える人!!」


 そうしたら先程まで森のように上がっていた手は林ほどまでに減ってしまった。まぁ、確かに友人が言うようにFが一番人気といっても過言ではないですよ。でもさ……もうちょい勉強してくれよ……そう思った最中だった。


「はい、ありがとうございました。では、次はミンメイいける人!!」


 ミンメイ。初代のヒロインであり元祖歌姫でもあるシリーズで神格化されたキャラクター。その歌はFでも多々、カバーされており知らない人はニワカとも言えるキャラクター……と、僕の常識ではそうなっている。


 しかし、その常識はこの瞬間に反応弾がぶちこまれたかの如く崩壊してしまった。


「え……いないんですか?」


 会場にいた100人のただの一人の手すら上がらなかったのだ……!!忌々しき事態。このままだと初代の看板に泥が塗られてしまう……そう思い僕は蚊ほどの勇気を振り絞って


「いきまーす!!」


 ざまめく会場。俺の歌を聴けー!!と内心を奮い立たせながら人ごみを掻き分けながら手を上げて舞台へ突き進んだ。


「お名前は?」」


「マーベリックです。駒込病院から来ました!!」


 理性のリミッターを解除して完全にはっちゃける事にしたが、多くの人の視線が突き刺さり腰が抜けそうになった……。そして俺は必死の形相で友人に助けを乞う為に手招きをした……情けないけど、チキンなんです。


「はい!!では、歌う曲は何にしますか?『愛・おぼえていますか』にすますか?」


 お姉さんの提案は至極普通だ。しかし、ミンメイの代表的な歌、『愛・おぼえていますか』を歌うのはファンとしては月並みすぎるので、マーベリックは……


小白竜シャオパイロンで!!」


 小白竜。ミンメイ主演のカンフー映画の主題歌として作られた楽曲。中国的な曲調で、初代の27話で輝がこの曲のイントロと同時に『アタァック!!』と叫ぶシーンは名シーンとして知られている事を言う必要は無い。


 マニアックってほどマニアックでは無いが曲も短いのですぐに離脱できる。そんな算段で歌った。まぁ、こんな若いのがこの曲を歌ったとなると、会場にいたおっさんファンは大爆笑していた。歌い終わり、若い衆からは軽くヒカれるもマーベリックは止めに、十八番のマックスの物まねをやっておっさんの笑いをかっさらった。ちなみに他にもFのブレラも少しできたりする。


 この日、この瞬間……僕は眩暈も感じたが同時にかすかながら自由を感じた。


 一種の現実逃避。確かにあの時間はそう呼べるかもしれない。狭い病院から池袋、そして大好きなマクロスのグッズにあふれた空間にいられた。……


 貧血で眩暈を感じるたびに現実に戻ってしまった。自分はマクロスと出会った頃の自分とは違うんだって。だけど、それでも良い。こうやって息をしてかねてからの願いを叶えられたし。


 最高の時間を過ごした僕は、これを糧にがんばろうと意気揚々と家路についたが、サンシャインの噴水広場でマーベリックの大好きなランカを演じている中島愛さんのトークショーが開かれていた。


 門限を破ったのはこれのせいだと口が避けてもいえない……。両親にはテキトーな事を言って有耶無耶にしたのであった。

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