File14 モテ期、到来!?
マーベリック、生物学上まれに見るモテない男子として学会では名を馳せた男。17年間で手を繋いだ事のある異性はお母さんとお婆ちゃんと幼稚園の頃の幼馴染だけ。彼女もいなければ女の子にチヤホヤされた事も無い高齢化社会の対策に貢献できない男。
そんな悲劇的な男が人生で唯一モテた事があるのは奇しくも駒込病院で過ごした二ヶ月だった。
入院したてのマーベリックは暇さえあれば病院をうろつき、時間をつぶしていた。消去法でしか発見できないマーベリックには当初具体的な方針は無かったので検査以外は主にフリー。本当に暇なんですよ、病院って。
売店の漫画は立ち読みできても『サラリーマン金●朗』やら『ワン●ース』とか趣味から外れまくったのしかない。『少年と空』の執筆が終わると暇が本格的に到来してしまう。
喉も渇いたので、自販機のある談話室に入ると老婦人が先客でお茶を楽しんでいた。手元には駒込付近の名物菓子でもある『塩大福』うらやましい限りだ。
「こんにちは」
僕の存在に気づいたお婆さんが声をかけた。あいさつされたら無視するわけもいかず僕は会釈をした。
「ども」
「あなたも一緒にどうかしら?」
自分でもよく解からないがバスの中や巣鴨を歩いていると御老人に話しかけられてしまう。ここでも同じだった。
「あ、はい。お言葉に甘えて」
塩大福が食べたい一心で僕はご老人のお茶会に参加することになった。
「私は2号室の木下です」
「一号室のマーベリックです」
三人の目は珍しいものを見るようなものだった。井上さんに聞いた話によるとこの病棟の平均年齢は63.3歳との事。そう、僕は最年少の患者だったのだ。
「いくつ?」
よく聞かれる質問だ。ただ17と答えるのもアレだと思った僕は一度言ってみたかった台詞を吐くことにした。
「いくつに見えます?」
少し考える素振りを見せた木下さんは
「うーん。24歳?」
この言葉―――悪意の無い言葉でこれ程までにマーベリックを傷つけたは無い。しかも自信に満ちた笑顔でしれっと言われたのだ……そうとうにふけて見えたのだろうか?
「……17っす」
「えぇ。うそぉ!!ごめんさいね。最近の高校生に見えないほどしっかりした物腰をしてたから……」
物腰って……そんな大した物ではない。運動系の部活だったから目上の人に敬意を払うのは当然である、そう教育されたマーベリックには極めて普通の態度をとっただけだった。
「じゃあ私はいくつに見える?」
「59ですかね」
もちろん社交辞令だ。ぱっと見は70言ってるくらいだが、ドンピシャで当てるよりこう言った方がよいに決まっている。
「お上手ねぇ。80よ」
八十歳にしては若々しい印象だった。発せられる言葉には生気があり、年より10歳は若い印象を持たせられた。
「若いのに入院か……大変ねぇ」
お茶を啜りながら病気のことを話した。木下さんは胃の病気で入院したが容態は安定し元気に退院を待つだけの事だった。
「いえいえ。慣れましたし……少し、寂しいのが辛いですが」
ボソリと本音を吐いてしまった。まぁ、こうやって人と話すのが好きなマーベリックは寂しさも忘れられるから大丈夫だったけど。
だけど、木下さんは僕に同情的な目で見つめて
「そうだ、私の病室のみんなも呼んでお話しましょうよ」
「え、良いんですか?」
渡りに船とはこのこと。知り合いが増えれば寂しくなくなるし、何より女性の病室には若い女子大生とかがいるかもしれない……僕は木下さんが呼びに行って帰るのを下心と好奇心とともに待った。
結果は……
案の定、お婆さんばっか。
みーさん、さきこさんなどをはじめとする戦争を体験した世代の方が僕の前に現れた。
そして女性が集まると結構な確立で成立するコイバナをした。予科練に行った恋人の話や戦後での恋……コイバナと言うより歴史の授業だった。
まぁ、昭和時代の話は好きだから胸を躍らしたのは事実だけどさ……。
漫画の話をすれば『のらく●』。音楽の話をすれば美空ひばり……さすがにどれも解からなかった。てか、若者そっちのけで昔話に盛り上がらんでよ。でも、一応は質問とかもして話には入ろうとした。その姿勢が認められ、お婆様に気に入られお菓子やら何やらを頂いたりしたのは
その後、数日にわたりお婆様方に誘われて談話室で談笑しその光景に出くわした井上さんに
「モテモテだね」
と笑顔で言われた。あの笑顔……純粋にそう思ったのか、それとも皮肉だったのか……今でも謎で迷宮入りしてしまいそうだ。
まぁ……異性に囲まれてチヤホヤされるのはモテると言うのなら……これが最初で最後のモテ期だったのかもしれない。
人生初の入院生活で人生初のモテ期……今思い出すと良い思い出だけど、モテない自分が悲しくなるのであった。
……現在、彼女絶賛募集




