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File13 教室は一号室で

 このエッセイを読んで、マーベリックが絶望に負けない強い人間だと思っている方がいると思いますが、それは少し違います。実際、僕は色々なことで絶望に打ちひしがれました。


 まずは、やはり難病と判明したとき。あの時は17にして死を覚悟し、遺書を書いたほどだった。まぁ、寝たら多少ましになったが。お次は大学受験。推薦狙いだったマーベリックは出席日数の影響で推薦は無理になり一般受験を余儀なくする羽目になった。この時のパンチは痛かった。ショックの余り2日間喉に物が通らなかった……(バヤリースは除く)。


 でも、そんな時に自分を奮い立たせたのは人との触れ合いだった。


 病室のおじ様方、看護婦さんやさきちゃん。そしてクラスの仲間……


 今回は一号室で味わった学校生活の話です。



 一番多くお見舞いに来てくれたのは親友の加藤くんと小山さん、藤森くんだった。彼らは毎日のように一号室を訪れてくれた。特に加藤君には何度もお世話になった。休日にも来てくれて学校での話や『少年と空』の感想などを聞かせてくれた。主にペペリヤノフと由衣を出せと。


 ちなみに僕の知らない間に学校で加藤くんと小山さんはしょねそらで誰が最強だのといった議論をしていて、僕は少し照れくさくも嬉しかった。


 まぁ、漫画を未だ返してないのは本当に悪いと思っていますが。


 藤森くんは僕と同じで戦闘機が好きで、よく絵を描いて見せてくれた。ちなみにしょねそらの由衣が乗った機体、F-29は彼のデザインを元に設定を作った。


 彼らといると自分が病気ではない……そう思えてしまった。でも、帰ってしまうと胸にぽっかり穴が開いたかのような寂寥で憂鬱になってしまった。


 だけど彼らの存在はとても大きかった。


 彼らとまた一緒に学校で笑おう。その気持ちが絶望に沈んだりした心に光で照らしてくれた。もし、あのまま彼らも来ないで一人で抱え込んだら間違いなく病気が良くなる事は無かった。


 

 本当にありがとう……


 

 やっぱり沈んでるより笑ってる方が良い。そう思えた17の初夏だった。



 中間テストを僕は受けられなかった。でも非公式で受けた……一番ベッドで。


 毎週金曜日の夕方、担任の市川先生は僕の病室を訪れてくれた。宿題と共に……。こちとら病人だぞ!!と言いたかったが今となってはあれは重要だったと思うようになった。


 入院生活で学校の勉強について来れずドロップアウトする学生も少なく無く、あれの宿題のお蔭で現在無事に卒業できた。


「先生、学校のみんなはどうしてますか?」


 5月の下旬、友人が突然来なくなり少し不安に感じた僕は先生に問うた。


「中間試験の勉強。マーベリックは……受けられないか」


 中間試験。その言葉を聴くと僕は憂鬱になる。部活も行けずに嫌いな勉強に専念しなければならなくなる……本当に最悪だと僕は思っていた。


 でも、ふと僕の脳裏に意外な欲求がよぎった。


 受けたい……と。


 そして、その些細な欲求は言葉となり


「先生、テスト受けたいです」


 スラムダン●?そんな感じの台詞を吐いてしまった……俺のバカ。


「え……でも、今日が最終日だから受けられないし……」


「とりあえず問題が解きたいです!!」


「非公式って形なら大丈夫だよ」


「はい。来週、お願いします」


 正気の沙汰とは思えない言動。今思えば、あれは学校に行って試験を受けられたあの頃への憧れだったのかもしれない。普通に学べて普通にテストを受けられたことに対する幸せを今となって自覚したのだ。


『当たり前は当たり前じゃない』


 当たり前のモノが当たり前じゃなくなり、その価値を理解した僕はその晩から試験勉強を始めた。


 いや……辛かった。


 貧血による眠気と眩暈。何度打ちのめされてもロッキーのように立ち上がり勉強を続けたが、ヘモグロビンが低いせいか親指の付け根がつるは……勉強できるようなコンディションではなかった。



 試験の結果は世界史以外はボチボチの点数だった。


 いや、世界史は十八番だから良かったけれど英語がなぁ……国際科だけあって難しいもなんも。


 でも幸せだった。


 皆と同じように試験を受けられた事……みんなと同じように頑張れた事が。



 人間には手がある。どんなに打ちのめされて絶望しても、また立ち上がらせてくれる為の手が……




 




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