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File11 素朴な妙薬

 入院生活での楽しみは?そう訊かれると色々とある。


 お見舞いに来た友達や看護婦さん、患者さんとのおしゃべり。一日の勉強を終えて書く『少年と空』の続き。さきちゃんへの読み聞かせ。そしてバヤリース。


 ん、バヤリース?


 そう、あのオレンジジュースのバヤリースだ。栄養なんて気にしないで味をとことんまでに追求したあの飲料だ。


 バヤリースは朝食の飲み物としていつも出てくる。メニューがお米なので、麦茶と対になってカンのバヤリースが出て来るのだ。カンに入ったバヤリース。僕はその味の虜になった。酸っぱさと甘さのハーモニー。するりとしたノド越し……何もかもが最高の飲み物。そう言っても過言ではないほど美味かった。


 しかしカン一つだと一日の摂取量はたかが知れてる。そんなんじゃ物足りないと思った僕は残飯の乗ったお盆を運ぶトレーを運ぶ看護婦さんを捕まえて。


「あの……余ったバヤリースあります?」


「あるけど……どうするの?」


「未開封の奴を下さい」


「えっ!?」


 学校給食で余った牛乳をおかわりするように僕は毎朝余ったバヤリースを回収した。捨てるのもったいないし、自分の欲求も満たせる。これ程地球と自分にメリットのある事をしたのは初めてだった。


 ご年配の方は余りバヤリースを好きでないのか、5本以上は平均で確保できた。そのバヤリースは主に苦い薬を飲むときに使用されていた。


 バヤリースで薬飲むのって危なくないの?


 そんな友人の声を入院中よく訊いた。実際、危なくない。むしろカフェインの入った麦茶で飲む方が危ないのだ。事情は知らないが緒方さんがそんなことを言ってた。


 なら水でいいじゃん。


 そんな声が上がったら僕はこう言いたい。「殺す気か?」と。


 白血球が少ない僕はあらゆる感染症の恐れがあったので、感染症予防の薬を朝に大体8粒に昼5粒、夜

は10粒は飲んだ。その中には『ステロイド剤』をはじめとする地雷が何個か混じっており、それを口にしたら口から苦さが30分は抜けない。コーヒーも飲めないマーベリックにとっては『地獄』の二文字だった。しかし、バヤリースのお蔭で苦味は抑えられ楽に飲めるのだ。


 ちなみに今は朝晩で10粒と劇的な減少して大いに助かっている。


 バヤリースは嗜好品でもあり、マーベリックの薬剤服用の相棒としても重宝された。


 わが友、バヤリース。お前との付き合いは永遠だ。



 もう一つの楽しみ――それは映画だった。


 僕は小さい頃から映画を見て育ち、今でも愛して止まない。特に洋画がマーベリックのお気に入りで、自分の想像力と生きていく糧になってくれた。


 主に入院中は80~90年代の映画を見た。この頃の映画はマーベリックは大好きで、アメリカがまだアメリカっぽく見えた。何と言うか、アメリカにまだ元気とエキゾチックな何かがあったのだろう。


 

「どうしたの?」


 ある日、僕が家から持参した『レインマン』を見ながらノートパソコンの前でしくしく泣いている僕を見て、その日の日中看護を行った宮本さんは少し驚いた様子で僕に訊いた。宮本さんも若い看護婦さんで物静かなであまり多くは語らない。でも、注射や点滴などの針を入れる作業は上手で、井上さんや緒方さんとならぶ『当たり』の看護婦さんだ。はずれは勿論、ザキヤマさん!!


「レインマン……見て泣いてるんです……」


「え……私もその映画大好き。良い映画だよね。トム・クルーズやダスティ・ホフマンの演技や脚本が凄く良くて」


「はい。もしかして、映画好きなんですか?」


「大好き。マーベリックくんも?」


「大好きです」


 あまり絡みも無かった宮本さんと映画談義が始まった。マーベリックも映画の知識にある程度は自信があったが、ことごとくその自信は粉砕された……。知識量が違いすぎた。


「入院してる時に映画って良い物だよ。コメディーを見て沢山笑えば免疫力も高まるし、『ロッキー』みたいな映画を見れば励まされるからね……」


 ん?笑えば免疫力がつく?確かによく笑っている患者さんは速く退院し、2番ベッドにいて悲観に暮れてる人は1年以上退院できていない……。


 よし、映画を見よう!!


 しかし、病院には洋画のDVDが無い。故に僕は命を懸けて隣町の巣鴨にあるツタヤまで行軍をした。時々ランニングをしている学校のサッカー部の友人に「ガンバレよ~」などと声をかけてもらいポロリと泣いたりした。


 巣鴨のツタヤは旧作が全品100円なので入院見舞のお小遣いを投入して、沢山借りた。アニメから洋画まで様々なジャンルを借りた。


 ここでマーベリックが入院中に見て「おぉ!!」と思った作品を紹介しよう。


 まず、『ロッキーシリーズ』。ボロボロになっても夢を信じて闘うロッキーには本当に憧れ、あんな風に自分も頑張ろうという気になれた。『ショーシャンクの空に』は終身刑と言う絶望的な状況でも希望を捨てずに生き続けた主人公に感銘を受けたりした。


 コメディーでは『裸の銃を持つ男』シリーズ。当時の政権をブラックジョークで野次ったり、お下劣なシーンなどで腹筋がズタズタになるほど笑った。特にアメリカンジョークを解りやすくした吹き替え版がオススメ。あと、『Youtube』で『細かすぎて伝わらないモノマネ』とかを見ても笑い続けた。


 よく解らないが映画を見始めてから血中の数値は安定し始めた。


 映画は本当に偉大だ。人を見たことの無い世界へいざない、感涙を流させたり、腹筋がねじれるほど笑わせ、時に道に迷った自分に勇気という光を与えてくれる。今の健康は映画のお蔭ともいえる。


 故に映画って凄いな……もし、入院することがあったら映画のDVDを沢山持っていく事をオススメします。




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