おまけ:お姫様と冬の魔女
昔々、北の山奥の洞窟に魔女がいました。魔女は永遠の若さと美しさを保ち続ける為に村から一番綺麗な娘を一人差し出すよう言います。もし差し出さなかったら、その村に魔法で永遠の冬を呼び起こし人々の食べ物をダメにしてしまうのです。
人々はその魔女を『冬の魔女』として恐れ、自分達の大切な娘を差し出すのです。そう――生贄として。
ある日、魔女はお腹を空かせ水晶で美味しそうで綺麗な娘を探しました。
「これは美味しそうな娘じゃ」
水晶に移ったのは隣の国のお姫様だったのです。雪のように白い肌と黄金のように美しい髪……これまでに食べた娘の誰よりも美しいお姫様を魔女はどうしても食べたい。魔女はそう思って手下のカラスに
「王様に姫をよこすよう言いなさい。断れば、国に永遠の冬の魔法をかけるともね」
「わかりました」
魔女の言ったことにカラスは頷いて飛び去りました。
カラスは山を超えて姫の住む国へ向かいました。そこは小さちけれど豊かな王国で、人々の笑顔が絶えない国でした。
お城の玉座の間に着いたカラスは王様に一礼し、魔女から預かった言葉を王様に伝えます。
「魔女様からの伝言だ。お前の娘をよこせとのことだ」
「なんと!?」
王様はカラスの言葉に声を上げて驚きました。大切な姫を魔女に差し出し、食べられてしまう……それは絶対に避けたいけれど、拒めば国の食べ物は寒さでダメになり多くの人が飢え死にしてしまう。
その夜、王様は眠らずに考え続けました。何万人の命と娘の命をどちらかを取るか……
次の日の朝になり、王様はお姫様を呼び出しました。お姫様は普通ではない王様の様子を見て、少し動揺しましたが、心を鎮めて王様の言葉を聞くことにしました。
「愛しい娘よ。国を救う為にお前を魔女に差し出さねばならない……赦しておくれ」
王様泣きながら大切なお姫様の手を取り言いました。お姫様は最初は驚きましたが、しばらくして泣いている王様の手を優しく握りました。
「良いですよ……私の命でお父様とこの国が助かるのなら、私は嬉しいです」
姫は笑っていましたが、そのサファイアのように青い目からは涙が溢れそうでした。
姫の行く道は危険に満ちていました。山賊や怪物などが山道には沢山いるので、王様は一番強く若い、黒真珠のように黒い髪の騎士を旅のお供に付けました。
そして二人の旅は始まりました。
旅の初め、騎士と姫が王国の野を歩いていると、咲き乱れる花畑の花々と野のリス達はお姫様との別れを悲しんで泣きました。お姫様も別れを悲しみましたが、涙を見せずに笑顔で手を振りました。
お花畑の次は魔女の住む山。そこではお姫様をさらおうとする山賊や悪いドラゴンが二人の行く道を邪魔しました。しかし、どんなに恐ろしく強い相手でも騎士はお姫様の為に勇敢に剣を振るって戦い、守りぬきました。そして、魔女の住む洞窟へ着くとお姫様は
「ありがとう……騎士さん。もう、この世界にいる事の出来ない私をここまで守ってくれて……」
戦いで傷ついた騎士に優しい声で言いました。
でも、お姫様の言葉は彼を悲しませ、苦しませました。
魔女に食べさせる為に自分はお姫様を守り続けなければならないのか?
騎士はそう思うと悔しくてたまりませんでした。
「姫、自分はあなたを生かす為に戦ってきたつもりです。決して死なすためではありません!!」
騎士は少し声を荒げて言いました。
「ありがとう……ごめんなさい」
姫は騎士の言葉に声を震わせながら応え、今までどんな恐ろしい相手を見ても流さなかった涙がその頬を濡らし
「私も死にたくありません……!!でもっ、お父様や沢山の人を助けないと……」
と、姫は声を上げて泣き出してしまいました。お姫様としてではなく、一人の女の子として……
涙を流すお姫様を見た騎士はふと思いました。
このまま魔女にお姫様を渡して良いのか?と。
渡せば国は助かるけれど、また魔女は娘を求めて人を傷つけてしまう。お姫様を渡すだけで解決するのか?
そして何より……ここまで守り通した姫を魔女にみすみす食べさせるだなんて絶対に嫌だ。
騎士は洞窟の前で悩みに悩みました。
「姫、国を助けたいのですね?」
日が暮れるまで悩んだ騎士は姫に訊きました。
「えぇ。助けたい」
「なら、行きましょう。魔女のもとへ」
その言葉を聞いた姫は覚悟を決め、騎士と一緒に洞窟へ入りました。
洞窟は薄暗く、意地悪なコウモリやカラスが二人を怖がらせようとしたけれど、二人は怯える事無く奥へ奥へと進みました。
洞窟で待ち受けていた試練を乗り越え、ついに二人は魔女の部屋にたどり着きました。
「よく来たわね……早くその美味しそうな肉を食べたいわ……ふふ」
髪も肌も氷細工のように冷たい色をした魔女は意地悪な笑い声を上げて姫に手招きをしました。
「はい。さよなら……騎士さん」
姫は騎士に悲しそうな笑顔で言いました。
「……渡さない……」
騎士は剣を抜き魔女の前に立ちました。
「何のまねだ、小僧?わらわに刃向かうつもりか?」
「あぁ。僕達は生贄として来たのではない。お前を倒し、国を救う為に来たんだ!!」
悩みに悩んだ結論がこれでした。魔女を倒して国と姫を助けるということ。
「小僧、この100年でお前みたいな事を言う人間は初めてよ。良いわ。その勇気、見せてみなさい」
そう言うやいなや、魔女は魔法で沢山のつららを作り、騎士めがけ雨を降らすように飛ばしました。
「姫、隠れて下さい!!」
騎士はつららの矢が刺さらないように、剣で叩き落としましたのですが、多すぎたので何本かは自分の腕や足を傷つけました。
しかし、騎士はぼろぼろになってま前に進む事を止めません。
「やめて下さい!!このままじゃ、あなたは……」
「僕は騎士です。あなたを守る……ですから、最後まで戦わせて下さい」
姫の言葉に笑顔で応えて騎士は魔女の放つ、つららの矢を剣で落としながら進み続けました。
つららをはじき続けた騎士はついに自分の剣が魔女に届く距離まで近づき、剣を構えました。
「ひ、ひぃぃ」
逃げようにも後ろは行き止まり。魔女は杖を降り回しましたが、騎士はそれを防ぎ、そして剣を振り下ろしました。
騎士が斬ったもの……それは魔女ではなく、その力の源でもある杖でした。
杖が真っ二つに折れたので、魔女は力を無くし、これまで得た若さを失って、氷細工のような肌はしわくちゃになり、腰の曲がった老婆になってしまいました。
杖もない魔女はもう悪さは出来ないと思った騎士は剣を収め、折れた杖を拾い上げ、岩の後ろに隠れた姫のもとへ向かいました。
「終わりました、お城へ帰りましょう」
傷だらけの騎士は笑顔で姫の手を取り歩き出しました……洞窟の出口、王様やみんなが待つ王国へ。
その後、姫は騎士と結婚して、騎士は王様になり姫はお妃様になりました。
そして、二人はいつまでもいつまでも仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
といった具合の物語を僕は書いた。慣れない『です。ます。』調の文章で書いたことも無いファンタジーを。




