File1 異変
ども、マーベリックです。
まず、僕の自己紹介をします。年齢はこの時17歳。身長は177センチで体重は65キロ。趣味はバドミントンと映画鑑賞、あと執筆。特技はガンダムの主人公、アムロのモノマネ。自慢はこれまで風邪ひいて学校を休んだことがないこと。
これは、そんな何処にでもいる健康少年マーべリックの今も続く闘病の物語である。
2012年 3月25日 日曜日
この日、僕は慶応大学の学生が行う小学生向けのアクティビティーのお手伝いをすることになっていた。自然や環境の大切さをゲームとかで教えて小学生たちに未来の街を作らす。そんなのアクティビティーだった。
結構、面白かった。子供たちと遊ぶのが元々好きだった僕は意外と楽しんでいた。この日に起こる悲劇なんて知らずに……
悲劇はお昼後に起きた。
『未来の街』の構想をチームの小学生達と立てている時に、僕は鼻をこすったら鼻血が出た。結構鼻血は出る方だけど、あの出方はまずい!!俺の直感がそう囁く。その直感に導かれるようにトイレに走りこみ、トイレットペーパーで止血を始めた。
出るわ出るわ……
マンガとかでよく、鼻血を滝のように出してぶっ倒れるような描写のように出た。量にしてバケツ一杯分。トイレに様子を見に来てくれた友達が言うには、「タイルが血に染まっていた」との事らしい。その友達が先生を呼んでくれて、先生の付き添いで病院へ向かう事になった。トイレットペーパー一巻きと大きなゴミ箱と共に。
病院へ向かう途中、僕の鼻血の出方に関して先生が言うには「鼻の太い血管が切れてるな」とのこと。
そんなんでこんな出るかい!!
なんせ、大量出血が始まって20分も経っていて、収まる事もなくナイアガラの滝のように血は流れていたのだから。
病院に着いた僕と先生。マーべリックを長椅子に座らせ先生は外来に
「生徒が鼻血を出してるんですけど、どうすれば……」
と問うた。受付の人は訝しい顔つきで先生をまじまじと見た。んなもん、脱脂綿とかつっこめよ……と言わんような。その内心を悟った先生は僕を手招きし、受付さんにゴミバケツと自分の惨状を見せた。
受付さん、すごい引いてた。鼻血ってこんな出んの?みたいな表情で。
「えーと。今日は日曜日なので、耳鼻科はお休みですし……ERへ」
ER!?グリーン先生!!母と一緒に海外ドラマのERを見ていた僕にとってこの発言はハンマーでブン殴られるより衝撃的だった。何を隠そうERはEmergency Roomの略称で、本当に重傷で命に関わるような患者さんしか入れない場所。そういう認識だった。
『患者は日本人の少年、血液はAマイナス。年齢は17歳。酷い出血だ……輸血パック、それとグリーン先生に連絡!!』
とか何とか言うカーターの声(吹き替え)が脳内で再生された。その数分後、
『残念ながら息子さんは……』
と申し訳なさそうな顔したグリーン先生(吹き替え版)が両親に死亡告知するシーンなんかも脳内再生される。
でも、現実は……
「あ、ダメです。交通事故の患者が運ばれたので、近くの耳鼻科へ」
まさかのたらい流し。日本の医療の問題部分を齢17にして目の当たりにした。
ダメだという事で、タクシーで一番近い耳鼻科に向かう事になった。ここに至るまで40分。鼻血は衰える事を知らずに出まくった。
タクシーで僕は変な感じがした。クラクラし目の前が暗くなるのだ。
「先生、目の前が暗いです。あとクラクラします」
「お前、それ貧血だよ……早くしないと」
貧血。未だかつて体験した事の無い現象に襲われたのだ。ちなみにマーべリク稚作、『少年と空―EAGLE KNIGHT―』で主人公、風宮翔が敵の銃撃により失血で貧血を起こすシーンはこの体験からである。ごめんな、翔。
そんなこんなで耳鼻科についた僕の治療はすぐに始まった。止まる事を知らない鼻血を止める為に方法は血管を焼いて塞ぐ――そう、『鋼の錬金術師』のマスタング大佐がやったあれ……って程ではないが、電気メスで切れた血管を焼いてしまうといった方法だ。
とりあえず、電気メスを鼻に入れるが鼻がそれを拒絶。くしゃみが起きてしまう。だが、お医者さんはくしゃみを止める注射を打って治療を敢行した。
結果は――止まった。ピタリと。医学すげー!!と、思いましたな。ほんとに……
帰りは両親が迎えに来てくれた。両親が言うには「顔面蒼白」との事。そりゃそうだ……あんなに血を出せば嫌でも血色無くなるわ!!
そして、この日の晩御飯は焼き肉だった。「血を増やそう」との事だ。散々な目にあったがひとまず、焼き肉にありつけるなんて……鼻血万歳!!
でも、異変はこの日から始まっていた。
一週間たっても顔色は鼻血の日と変わらなかった。というか、階段や坂を上るとめまいしたり、やたらと疲れて眠くなったり……悪化した。
大好きな世界史の授業も寝る始末……大好きなバドミントンもままならなかった。
「あぁ……俺も年か」
と呑気な事をほざく若者。そいつは呑気な事に自分が今、どうなっているのかをも知る由もなかった。