麒麟児の少女達-the boundary-
三人の少女が日の当たりの良い観客席に座って日向ぼっこをしていた。
眼下にはグラウンドがあり、サッカーをしている生徒がボールを追いかけている。
ここは山の形に無理矢理合わせて作ったために、妙な形状と階段の多い学校となってしまっているのだ。
「天才の定義ってなんだろうね?」
スケッチブックに走らせていた鉛筆を止めて、ふと一人の少女が思い付いたように呟いた。
眠たげな表情でサッカーを観戦していた上下ジャージに制服のスカートという不思議な格好をした少女が彼女に顔を向ける。
「どしたの、ななちゃん。急に」
「あのね、天才には普通の人との境界線があるのかなって思って」
「あるでしょ」
間髪入れずに、きっぱりと言い放つジャージ少女。
「あるからこそ、その境界線を越えた人間の脳を探るべくうちらはこの学校に集められて実験されてるんだから」
「……だからさ、せめて研究って言おうよ…。理亜ちゃんはどう思う?」
話を振られたショートカットの少女は、手元のメモ帳にさらさらと文字を書いていく。
[天才の定義とは何か、だよね]
「うん」
早いスピードながら、字は美しい。
[定義というよりかは、多数決みたいなものじゃないかな]
「多数決?」[そう。多数の人間がその人の才能を認めるってことでしょ?]
[みんなが出来るものならそもそも認めないし]
「天才は大勢の人より秀でているから天才と呼ばれる――ってことでいいのかな」
[そう。昔から言われてきた事だけどね]
「逆に、大勢認めてくれる人がいなければその人はいくら天才でも凡人認定なんだね」
ジャージ少女の言葉に頷く。
[私たちは分かりやすい才能があったから天才って認めやすかったのかもね]
自分のことを才能やら天才というのに少しばかり嫌悪感があるのか苦い顔をした。
「分かりにくい天才って?」
[例えば、ジェンガをひたすら積み上げられる天才とか]
確かに分かりにくいねとスケッチブックの少女とジャージ少女は納得した。
「ななちゃんのは、確かに一目で天才だと分かるもんね」
ジャージ少女はスケッチブックに目をおとした。
描かれていたのは目の前にある光景を切り取ったもの。モノクロ写真かと見間違うほどのリアルな絵だった。
「短時間でこれを仕上げられるからすごいもんだよ」
「でも文美ちゃんも理亜ちゃんもすごいじゃん」
褒められたことが恥ずかしいのか、照れ臭そうに少女が笑う。
二人は無言で笑った。
――桜坂理亜。オールマイティの天才。
――梅林文美。スポーツ全般における天才。
――七隈亜子。絵画における天才。
特別授業クラス、1の10に所属する16人のうちの3人。
「あ、もう戻らなきゃ。うち実験あるんだ」
「だから研究って――」
亜子は知らない。
二人に襲った悲惨な過去を。
二人は見せない。
身体と心に負った深い傷を。
「行こ、理亜」
[うん]
だれも可哀想な彼女たちに平穏は与えてくれない。
この会話の数日後、理亜と文美はとある事件に巻き込まれることとなる。
だが、それはまた別の話。




