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二章 罠

「あの言葉には裏があるのよ」 優花が生徒会から受けとったのは、"勉強時間"に応じて勝手に時間が進むストップウォッチだった。「勉強12時間」…その真意とは一体?そして優花を呼びださした会長、柊弥の意図とは――?

「おはようございます!」

優花は小学3年の頃から家政婦として住み込みさせてもらっているおばあさんに、台所から挨拶をした。

「優ちゃん、おはようねぇ。」

「おばあちゃん、今日は美味しいお魚が手に入れられたですよ。食べて下さいませ」

優花は笑顔で朝食を準備する。優花は首元の絆創膏に手を当ててから、同居人が目の不自由な老人であることに胸を撫で下ろし……

「あ、そういえば優ちゃん。近頃私のお客様がうちの家にくるのよ。ええ、まぁ、その人達には孫もいてねぇ。優ちゃんと同い年くらいの。」

「そっそうなんですか!そそそれはお祝いしなくては」

な、な、なんてこと!首の絆創膏不思議に思われちゃうじゃない!


優花は必死で動揺を隠すと、椅子にストンと腰をおろす。

「あら、そうして頂戴。それにしても今日の朝ごはん美味しいわね、」

「あ、ありがとございます…!!」


その後の話など耳に留まらず、優花はフラッと立ち上がると「すいません、高校に行ってもよろしいでしょうか」と力なく言い去った。


◆◆◆

「おはよう、優花」

「あ、おはようございます、紀桜ちゃん」

優花はへへへーと腑抜けた顔で挨拶する。………と、返ってくるのは強烈なビンタ。

「いっだぁぁ!!!」

「なに学校行く前に死んだ顔してんの!起きなさい、起きなさぁい!」

「起きてますよっ!なにも両手で挟まなくても!」

「ほら、前をみる!」

ビシッと紀桜は前を指指すと、そこには腕時計ものらしきものを配った生徒会員が沢山いた。

「なんでしょう、あれ…」

首を傾げる優花に、フフフと気味の悪い笑いを帰す紀桜。優花は彼女にギョッっと、わざとらしく一二歩下がると、

「はいっいくよ、私達の楽園に―」

と、紀桜に肩を組まれ、躊躇いつつも前に進まされた。




「今日のストップウォッチだ。自動だから触るなよ」

「ぁ、はい」


そういって手渡されたのは、何も変哲のない時計。

「?」

首をまたもや傾げる優花に、紀桜はそっと耳打ちした。

「これが私達の唯一の弁護士だからなくしたらオシマイと思ってね★」

「えええ!?」


彼女曰く、これが12時間を図るもの、というらしかった。

優花は"処刑"という言葉と銃を思い出してごくりと唾を飲み込むと、紀桜に振り返って言った。


「早く教室で勉強しましょう。」



まがおの優花にプフフと紀桜は吹きだした。

「何、優花、本気で会長の話信じてるの?馬鹿、私と同じクラスでしょ?だったら頭使ってよぉ、あの言葉には裏の意味があるに決まってるじゃない。」

「へ?」

「いいから、まぁ行こう。夏織先輩とかもそろそろ朝練終わる頃だしさ」

「え?え?朝練?」

優花は引っ張られながらクラスへと向かった。




「不思議……。」


優花は変な光景をまたもや体感していた。

レベルの低いFクラスから順にガリガリと勉強しており、優花のクラスに近づくほどに本を読む人、おしゃべりする人、部活に励む人が現れはじめ、Aクラスは皆勉強しているものの、優花のBクラスは全員が優雅な朝休みを過ごしていた。


「なんで……?」

「よく考えてみて。早くしないと優花は処刑になっちゃうよー。」

「なんてひどい、です!」



「こらこら、紀桜ちゃん、いじめはなしだからな?」

後ろから声がし、振り返えれば「はよ」といって笑うジャージ姿の夏織がいた。

「おはよ、先輩、おつー。」

「おはようございます、かおる先輩」

二人も素早く言うと、優花は慌てていう。

「教えて下さいませ、じゃないと……!」

「ははっわかったから慌てないの」

そういうと夏織は自分の時計をみせていう。

「いくよ?今俺の時計は止まってる。なのに……。ちょっと試しに優花の年と星座教えてよ」

優花は訳もわからずその通りにいった。

「15歳。水瓶座です!」

その瞬間、夏織の時計はわずかながらに動き、また止まった。

「へ?なんで動いたですか!?」

「なんでだろうな?」

夏織はそれだけ言うとにこにこしながら「ちょっと着替えてくる」といって手を振った。

「まだわかんないのぉ?優花頭悪い?」

「……どうやら悪いようなのです」

しょぼんと暗いオーラを纏う優花に、前の席から声がかかった。


「この時計、うちらの"学んだ度合い"とか"考えて発見した時間"とかと連動してんだよ。どう?おっきなヒント」

にこっと笑う年上の先輩に大きな声で言った。

「分かりましたです!!」


腕につけた時計を紀桜と彼女に見せつけると、その時計はちょうど30分過ぎたことを表していた。


「つまんないよぉ、井上先輩ったら」

「だってあんまり時間ロスしたら可哀相じゃないか、柚風。」


井上は紀桜にけらけら笑って小突くと、もう一度優花に振り返っていった。

「夏織が答えをはっきり言わなかったのは、あんたに考えさせて、今まで"勉強した時間"を加算させてあげたためだってわかってやんなね?」

「あ、っはい!ありがとうございます、井上先輩!」

「いやいや、お礼は向こうさ」井上が指指す方向には制服姿の夏織が立っていた。


「ん?俺何も知らないけどなんだ?」

「ありがとうございました、夏織先輩!」


優花はニヤリと笑うと長々と続けていった。

「では先輩方も改めて学 ん で 下さい。

このストップウォッチは私たちの頭の学習時間に連動している……ということは、何をしていても学べてると感じさえできていれば勝手にストップウォッチは進むんですね?」

紀桜は横に割り込むと、ぷーっと頬を膨らませて話をはじめた。


「私も学んだことを復 習 し て い ま す。

要するに、例え読書をしていても新しい本なら新しい内容を知る意味で勉強していることになるし、例え部活をしていても、人間関係を学べていれば勉強をしていることになる」


最後に井上はにやにやしながらつけたした。

「よーするにうちら、もしも東大入りたいとかないんだったら、無理に学ぶんじゃなくて普通に規則正しい生活してりゃいいって話だ」


夏織は三人に親指を立てた手をぐいっとさしだした。


「全員正解。あの人、なにも『規則ただしく勉強12時間』っていっただけで『なんの教科を』なんていってないからな。教養を身につけろって話だったんだろうな。」


「まぁ、会長様のとんちクイズに負けた下衆はこの学校に必要ありませんって意味かね」


「また梓さんはそういうことを……」

夏織は小さく笑うと、三人に自分のストップウォッチを叩いてみせた。


「時間稼がしてくれてありがとな。」

三人は自分のストップウォッチをみると、それぞれ満足してうなづいた。


「だから哀れだったよな、あの一年。もうっと早く仕組みを教えてやるんだったよ。」

夏織の言葉に、梓はふんっと鼻を鳴らすと、制服のネクタイを思い切りしめあげていった。

「ちょ、苦し」

「だからあんたはいつまでも甘ちゃんなんだ。言葉は自分のものなんだから自業自得だよ。お嬢ちゃんもね」

それから優花の方を横目でみる。



横で眺めていた紀桜ははっとすると「そうじゃない!」と手を叩いていった。

「優花、首の契約どうするの!」

「契約?」

「比喩よ!比、喩!それついてる限り、柊弥先輩のもーのー、みたいじゃない?」

紀桜はにへへへと笑いながらいう。


かぁぁぁぁ//


「これは事故だと思ってますし、私は私のものですからっ!」

優花が顔を染めたその時だった。


キーンコーンカーンコーン


「「1時間目の授業が始まる前に呼び出しだよ。神森優花、今から5分以内に生徒会室にきて。以上。」」



ざわざわざわ


周りが初めて日常に戻る。急に周囲の視線を感じ、優花は苦笑いをしながら仲良くなった3人をみた。

「うわ、何も手を打つ前にきた。まずいな」

と夏織。

「あんたなら大丈夫でしょ。昨日の見てたからわかるよ」

と梓。

あはは、と惚けたように優花は笑い、紀桜はぐいっと腕を引いた。


「とりあえず5分たつ前にいこ。あたし案内する。」



◆◆◆

生徒会室の前まで見送られると、「優花ファイっ」と紀桜に押し出された。

あまりに人に恐れを見せない紀桜にこの時はなにも考えず、優花はただゆっくりと中を窺いながらドアを開いた。



「あの…失礼します?」

「遅いよ」


中をみれば、きちんと整頓された机とソファー、ひじ掛け椅子が並んでいるだけのシンプルな場所が広がっている。

「すいません」とつぶやいて、ひょいと入れば、またもや彼の右手に釘付けになった。


「ん?」


にこりとする柊弥に、優花は両手を上に持ち上げた。

「ストップ!なのですよ、撃たないで下さいませ?」

それから苦笑いを続けて問う。

「その銃はどこで手に入れられたのですか?」


一瞬の沈黙。


それを破ったのはぷはっと吹き出す彼の笑い声だった。



「君、面白いよ。いい加減気づいて。」

「へ?はい?」

カチャとロックが外された音がすれば、やはり体は固くなる。柊弥の手招きで、優花はそっと身構えながら近くまで歩いていった。

ソファーまでくると、指で机を叩くので、優花は柊弥の向かいの席に落ち着いた。


「あの…」


優花が言おうとした瞬間、頭に銃があてがわれる。

ひっと息を飲んだ途端、鋭い音と共に感じたものは"冷たい水滴"だった。

「え…?」



「ははっ」

柊弥は初めて砕けた顔を見せた。

「ただの水鉄砲だよ。ダイソーで買ったものに、自分で音声をつけて改造しただけ。」

柊弥は自分の小さな発明品を眺めると、机に、コトと置いて優花をみる。


「ど?ほんとに僕なら信号機も赤から青に換えられそうだろ?」とクスクス笑う柊弥に、優花はホッと胸を撫で下ろした。


「心臓とまるかと思いました、えっと会長……」


「柊弥、でいいよ。神森優花。」

柊弥はそういいながら、ふいに優花の腕をとると、ストップウォッチをみる。


「やっぱり想像どうりだ。やるね、なぞなぞにもクリアか。」

うーんと唸る姿はなんとなく可愛くも見えて、どこをどう見ても昨日の総会とは姿が違う。だからといって優花を覚えているような雰囲気もしない。優花は不思議な感覚に首を傾げた。

様子に気づいた柊弥は優花の腕を優しく机に置くと、向き返って問う。


「ん、どうした?」


柔らかに微笑む顔は優花の知る彼そのもので。

「昨日と、違うな、と……」

躊躇いがちに呟くと、自分が大好きな柊弥は高校になるとこんな姿だろうかと目を背けた。




「あー…そのことね。」



柊弥は急に落ち着いた声に戻ると、後ろにさりげなくたっていた委員の一人に「お茶頂戴」といってから

「気にしないで」

と冷たく放った。


……?


「あの…」

「それより、それ。ごめんな。」


それとはどうやら首の跡の様で。

優花は苦笑いをして、小さく「いいえ」と呟く。


ほんとは今の家に帰る度、ひやっとするけれど。


「ねぇ、絆創膏、とってみてよ」

頼んだお茶を優花に振る舞い、「下がって」と委員を追い出すと、何食わぬ顔で言う。

優花は一回思考が停止した後、頭にハテナを浮かべ、それから会話のつながりのおかしさを納得してから怒ったように大声をあげた。

「今謝罪されたばかりなのにおかしいのですよ!なんでですか―っ!」

流石金持ちなのか優雅にお茶を飲んで、静かに視線を優花にあわすと目を細めて再び笑う。

かっこ、いい……

ふと思ったた拍子に、手でちょいちょいと呼ばれると、何故だか勝手に動く体。

机のわきを通り、彼側のソファーに渡ると、急に柊弥は立って優花の腕を引いた。

「ゎぁっ、!ちょっ、//」

よろめいて、助かった…と顔をあげれば彼の顔がすぐ近くにある。


助かってない助かってないよ、優花!


そりゃもちろん、腕を引っ張ったのは柊弥なのだから、よろめいて助かったといえば柊弥に抱き寄せられた状態である。

こんな状況がまるで初めてな優花は耳まで真っ赤になるのを感じながら口をパクパクさせた。


柊弥はそんな優花の耳元に口を寄せると、囁いた。


「なんでって…。君が気に入ったからだ。何度も言わせないで。」




低いテノールを直にきき、優花はへにょっとなった状態で相手の腕の中から無理矢理抜けだすと空気が抜けた状態で叫んだ。


「初めて会った癖にな、なな何いってるですかぁっ」


「何って、別に。そのままをいっただけだけど?」

あっさり答えるジャイアンに優花は顔を背けて小さくため息をついた。


これはお金持ちだからジャイアン思考なのでしょうか、気に入ったものは僕のもの、みたいなことなのでしょうか――?!


優花は心で叫ぶと、肩で息をしてからそっと出口へと向かう。

きっと私が噂で聞いた『柊弥は東校にいる』というのは別人のことだったのかもしれません


優花は静かに思うと、後ろ手にドアを開けて部屋を出た。


「失礼しました、失礼します、また来ます」






「ふはっ」

優花が出た後で柊弥は吹いた。

「入っていいよ、井上。」

「ありがとうございます」

柊弥の現在の一番の部下である井上正樹はゆっくりと奥の部屋からでてきた。


「ねぇ、聞いた?『また来ます』って。多分無意識なんだろうけど、真面目だからきっと後で『また私いかなくちゃいけない』とか思って嘆いてるんだろうね、優花。」

柊弥はうっすらと頬を染めながら呟いた。「可哀相に、神森」

「なんで。僕が昔受けた傷を思えば全然。」

柊弥はため息をはいてドアの外を睨む。

「だからあれは神森が無断で柊弥様から去った訳じゃ」

「何、実質、勝手に僕の前からいなくなったのは彼女だよ。話した感じ、覚えてもくれてないみたいだしね。だから今無理にでも連れ戻すのはいいことだ。」

今度は正樹がため息をつく番だった。

「まぁ、なんとでもおっしゃって下さい。柊弥さん、それよりも、」

正樹は苦笑いしながら口をはさむと、「ああ」と言って、柊弥は口を開いた。




「『失礼しました失礼します』ね。出入りの言葉で確信したよ。やっと見つけた、僕の小さい頃のメイドさん。」


柊弥は優花が今でていったドアをみて、クスリと静かにわらった。


「もう二度と僕から逃げられないようにしてやる…」

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