第一章 プロローグ
小説をちゃんとした形で書くのははじめてなので、まだ全然きちんとした文がかけてなくてすいません;
設定は変わっているかもしれませんが、どこにでもありふれたもどかしい恋をテーマに書きました。
幸せのクローバーの一枚目は"優花"を中心とした甘酸っぱい恋の葉を送ります。
どうぞ読んで幸せになっていただけると嬉しいです!
『絶対また会えます、だから』
『どうか私をお忘れにならないで…』
第一章 プロローグ
「ふぅん、加藤優花、ね。気に入ったよ」
冷たく笑いながらいう彼に、優花はごくんと唾を飲んでから、睨み返した。
…絶体絶命というやつですね。
全校生徒が見守る中、優花は最強最悪な生徒会長の前で冷や汗を流した。
◆◆◆
「やった、です」
高校合格発表の日。優花は一人でぽつんと呟き、喜びをかみしめるように微笑んだ。まわりでは家族や友達とはしゃぐもの、絶望的な顔のもの、沢山の人がいる。優花はまわりには目もくれす、手元の受験票を見つめた。
「4番…あの方が導いて下さったみたいです。
4は幸せのクローバーの4なのです。」
皆が避けた番号を優花はあえてうけとった。昔、大切な人が教えてくれたことに間違えはなかったようだ。カメラもケータイも何ももたない優花は、しっかり"4"の文字を頭に刻むと、ギリギリもっていたお金を全て入金した。優花にとって、今後の生活より、この学校にはいることの方が意味をもっていたのだ。
その理由というのも……昔お仕えしていた大好きな彼にもう一度だけ会いたくて。
「今日は、生徒会総会だ」
「へ?あ、そうですね!」
合格証をもらって数日。優花は初めてできた友達に返事をした。自己紹介で敬語口調は癖だと言ったところで皆の笑いをとり(決して本意ではないのだが)、初日にはすっかり仲の良いお友達ができていた。
中高一貫の学校なだけに友達関係には身構えていたものの皆優しい人だったことに、優花は喜びをかみしめていた。
「ああ!神様、今日も目をつけられませんように!」
「そんなに生徒会長さんって怖いんですか?」
そしてまさか、絶体絶命な日がこんなにもすぐ訪れるとは思いもしなかったのだ。
「まさか、知らないの?あんな有名な人。」
紀桜は、目を細める。驚いた時の彼女の癖だ。
「まぁ、高校からだもんな」
夏織(かおる)は苦笑すると、優花の頭にポンポンと手をおいてからつづけた。
「この東神学校に入ったからにはしっておいた方がいい。」
紀桜と夏織は優花の初めての友達で一番の仲良しだ。この学校では全員を能力でクラスわけしていて、優花たちは上から二番のクラス所属。紀桜は同い年で、夏織は先輩だった。
優花はこくりと頷くと二人の話に耳を寄せた。
――実はさ、この学校は昔、大の不良学校だったんだって。でも、俺より少し前になんと小5にして中学に受かって突然現れた、ミラクルな不良がきたんだ。我が儘ですぐに自分の意見を通そうとする最強最悪な不良さ。もし批判でもしたら、病院送りは間違えないな。――でもな?その人、結構正しいこと行ったり有言実行だったりするし、事実その先輩がこの学校を牛耳ってから、ここは優花の知るとおり名門校になったんだよ。そしてその人は今もここにいる。先生も逆らえない、いや、逆らわない。
――その人が…
「生徒会長様ですか……?」
優花は難しい顔をして尋ねた。夏織はまた苦笑いをしてうなづくとつづけた。
「一番おっきな財閥、どこか知ってるか?」
「もちろん、四葉財閥ですね?」
「ああ。会長、そこの坊ちゃんなんだよ。だからなんでもありってことだな。」
優花は急に驚いたように目を見開くと、夏織をキッとみて言った。
「四葉のお坊ちゃまがそんな不良なはずがございません。なにかの勘違いか人違いなはずなのですよ」
夏織は目をぱちくりさせて優花をみる。そしてニッと笑うと、優花のおでこをパチッと指で弾いた。
「痛っいです」
「3年先に通ってる先輩を疑うなんて酷いぞー?お兄さんの言うことに間違いなんてありません。」
隣の紀桜はそれをみてクスクス笑うと、二人の前にでて言った。
「夏織先輩の話は本当!でもいくら凄い人だって、あたし、やっぱり暴力反対なんだぁ。」
二人はそれをきくと、周りを確認してからゆっくりうなづいた。
「確かに、学校の秩序が直ったなら、優しい統治を行うべきなのですよ」
「二人ともこらこら、しー。」
夏織は口に指を持っていく。紀桜もそれを真似して「しー、早くいこ。話は後で、だわ?」とウィンクすると、3人はグラウンドに駆け足で向かった。
優花が初めての生徒総会でみたのはあまりに異様な光景だった。
「嘘」
何千人の生徒がいるのに、まるで誰もいないようにすら感じられるグラウンド。周りには『生徒会』という文字を袖につけた先輩方。
『優花、変なことは一言も話すなよ?』
夏織がそっと口パクで伝える。
その時、背筋が凍るような声がした。
「皆、おはよう。」
なんて冷たい声。
優花は眉をひそめると、周りはピッタリとそろった歓声のような、違和感あふれる挨拶をする。
「おはようございます!!!」
優花は周りをキョロキョロすると、隣の紀桜は指で前をさした。『前向いて。死にたいの?』と、茶化す様な口パクを添えて。優花は前を見る。
そして息を飲んだ。
……柊弥様。
やや釣り上がった目に、スッとした鼻。薄い唇に整った顔立ち。少し長めの黒髪はさらさらと綺麗で、体格すら文句つける所のない容姿。
小さい頃に別れたけれど、やっぱりわかる。柊弥様だ。……ただ、なんて悲しげな……。
不意にまた、冷めた言葉が紡がれた。
「今日は特に言うことはないよ。普段どうり12時間きっちり勉強して、規則正しく過ごすこと。サボりは許さないよ。一分でも足りなかったら……」
彼は目を細めると、人差し指を首に持って行き、ドスをきかせて言った。
「処刑。」
これが東大進学率50%の進学校の所以だった。
驚いた新学生で、ふと呟いた者がいた。
「無理だろ……」
夏織はハァとため息をついてその後輩をみる。
あ、同じクラスの。仲良くしたかったのにな。
そう思う間もなく、目の前で"処刑"が起こった。
それは簡単にいえば会長直々の暴力だった。
一瞬にしてその子は見るも無惨な姿になっていた。
……いつの間にここにきて、こんなことに。
優花は息を飲んでそこをみた。気がつけばその男の子は他の生徒会委員に保健室に連れていかれ、それなのに周りはしんと静まりかえっている。
「僕に逆らうな。わかったね、君達。」
「間違っています。」
優花はうっかり口に出していた。はっとした時には時遅し。
「何が」
冷めた声はゆっくりと近づいてきていた。
あちゃー、と紀桜は夏織の方をむく。夏織は『無理だって。』と顔を逸らし、物悲しそうに様子を伺った。紀桜は夏織をにらんでから自分も優花と会長の様子を見続けた。
「何が」
再び会長は言う。優花は目をきゅっとつぶり握り拳をつくると、一歩前にでた。
「今のはあんまりだと思うです。」
……なんでこんな一言呟いたくらいで制裁するなんてことを。
「確かに方針は素敵です、しかし、なんでも暴力で片付けるのは……」
言いかけたその瞬間、頬に痛みが襲った。
「いっ?!」
あまりにも早く突然な攻撃に優花は目を見開いた。
「僕に文句つけるなんて何様?」
痛む箇所を手で拭えば赤い液体。優花はもう一度彼をみると、いきなり彼の蹴りが容赦なく飛んできた。
しかし、二度目以降の攻撃に、優花は決してあたることはなかった。
……戦闘なら昔から慣れきっています。
さっと避けると次から次へとくる攻撃を、人に当たらないよう配慮しながらかわした。こんな怒涛の攻撃は初めてだ。
この人、本当に柊弥様……?
優花が思った瞬間、彼の口角があがるのがみえた。
「……?」
パンッ
不意に渇いた音がした。
周りは悲鳴がきこえる。ぴた、と動きをやめると、優花は目を見開いた。
目の前にいるのは、銃を持った、不敵に笑う生徒会長。
「へぇ、やるね。でももう面倒。遊びは終わりだよ」
「へ?」
「動かないで。動いたらうつ。」
「……恐縮ながら、警察に捕まりますよ」
優花はピタリと動きをとめ、銃をみてから彼の顔をみて、思い切り睨んだ。
「捕まる?笑わせないで。僕は天下の四葉財閥の息子、柊弥だよ。この世界は僕が青といったら赤信号さえ青になるんだ」
彼はそういうと、動けなくなった優花の前にゆっくりと近づき、いきなり手をのばした。
その手は優しく優花の傷部をなで、不意にそこへキスをした。
「へぇぇぇ!?//」
周りの女子からはちょっとした声がきこえる。優花も真っ赤になって間抜けな音をもらすと、柊弥はクスと笑った。
優花が目をそらそうとすれば、ふいに顎をくいっと持ち上げられ。
優花は口をパクパクすると、再び彼の顔をみた。
「あー、そういえば、」
惚けたように言う彼に、優花はごくんと唾を飲んでから、意気を取り戻し、睨み返す。
「何?凄んでも真っ赤な顔の女の子なんて怖くないからね。それより」
クスクス笑って彼は優花をじっとみる。
「な、なんでしょう?」
急に腕を引かれ抱き寄せられる。
「何するです…」
優花が言おうとした瞬間。
かぷ。
一瞬にして周りがざわめく。
「、なっ//」
「ん?何さ。」
優花の首元に噛み付いたかと思うと、ちゅ、と吸って、嘗める。紅い鬱血が残れば、柊弥は満足げに不敵に微笑んだ。
「よくみると君可愛いね。でもって君の強さ、気に入ったよ。すごくムカつく。」
急にニコッと笑う柊弥に優花は怪訝な顔で何かいおうとした。……が、できなかった。
「何か話したらうつから。」
「そ、な」
柊弥は少し考えた顔をしてから、優花をもう一度みると、そっけなくいった。
「そうだ、明日の朝、生徒会室きて。興味持ったよ。」
それだけいうと、柊弥は優花を突き放して大声でいう。
「今日は解散。みんなクラス戻って。」
「いたた」
「大丈夫、じゃないよね、もう馬鹿!」
紀桜はしりもちつく優花を助けおこすと、目に涙を浮かべながら小声で怒った。
「処刑されるか心配したよ!」
「ごめんなさい、ありがとうございます」
「阿呆、あれほど話すな言ったのに、優花ちゃん」
後ろから頭をわしゃわしゃされ、見れば夏織が困った顔をしていた。
「ごめんな、なにもできなくて。でもびっくりしたよ。感動した。何、格闘でも習ってたのか?」
「いいえ、そういうわけじゃありませんが、避けるだけでしたし……。」
優花はお茶を濁すと、夏織はあまり気にしないそぶりで続けた。
「なんていうか、まぁ、お友達にこの赤いのが残っちゃったのには、流石の俺もキレそうだったかなぁ。」
夏織は優花の首をそっとなでると、優花は苦笑いをした。
「こうなった以上なにされるか不安だし、俺も天下の会長様から守んなくちゃな。な?紀桜?」
「え、私も?」
「当たり前だ、こら。」
「わかってるにきまってますよぅ、先輩!」
紀桜はもうっと怒ったように夏織をたたくと、優花に振り返っていう。
「実は私だってそれなりだから、会長様から守る位の力あるから、見ててよ?ゆうか。」
「あ、ありがとうございます。迷惑かけてごめんなさいです。」
「とりあえず明日、どうするかね」「顔だけならイケメンなのになぁ」「そうじゃないだろ?」と他愛なく話す二人に、優花は内心気がそぞろだった。
なぜなら優花はやはり"柊弥"という言葉に引っ掛かっていたのだ。
『優花は僕にとって大切な人だ。』
『人に優しくすれば、いつかは自分にかえってくるからね』
……全く別人です、よね。違う柊弥様ですよね。だって柊弥様なら、私を忘れるはずがない……。
優花は夏織と紀桜の話に一緒に笑いながら、胸にチクりとささるものの存在に気づかずにいた。
柊弥様、私のご主人様は違う人ですよね。
優花は何度も心の中で唱えていた。