『ゴリラ』 それは信頼の証
本作は清坂正吾様主催の個人企画『ゴリラパーティー』の参加作品です。
「あ、サドルバッグの口が壊れた」
斉川 淳はバイクが好き。
特に、あのお高いアメリカンバイクが。
暇さえあれば、ウキウキで磨いちゃうくらい好き。
もちろんツーリングも好き。
そんな愛するアメリカンバイクに取り付けたサドルバッグ。
ほんの少し壊れかけている。
あの時か? それともこの時か? と、思い返す。
見て見ぬふりをしたような、そんな気がしないでもなかった。
このままでは走行中に中身をぶち撒けるかもしれない。
中身を空にしてしまえばいいのか?
いや、でも、壊れたままではバイクショップにも行けない。
と言うよりも、行きたくない。
サドルバッグを一旦外して行くか?
でも、直せるものなら直したい。
さてどうしたものか。
延々と回り続ける思考。
工具箱、引き出し、棚。
ゴソゴソと手を入れて探すも、欲しい物が見つからなかった。
買いに行くしかない。
だが、バイクには乗れない(乗りたくない)。
通販では時間がかかる。
──あっ。奴ならきっと!
スマホを取り出し、迷いなくタップ。
「よぅ、ひでゆきー。あれ持ってないかー?」
アラフィフだというのに、甘えた声を出す淳。
スピーカーからはいつも通り不機嫌な声。
小学校からの腐れ縁、能代秀之だ。
『あれってなんだよ? てか、いきなり何?』
「あー、ごめーん。サドルバッグがさー、壊れたんだわ。ちょっとくっつけてからショップに行きたいわけよ」
『くっつけるって、接着剤?』
「違う違う。ダクトテープ」
『⋯⋯ガムテープでいいだろ? 歩いて百均に行けばあるじゃん』
ムッ。
淳はちょっとだけキレた。
「俺のバイクはアメリカンだぞ。ダクトテープ一択だ!」
『はあ!? 意味が解らん!』
「アメリカと言ったらダクトテープだろうが! ダクトテープがあれば何でも直る! のアメリカの精神だ!」
『ここは日本だぞ! ガムテープがあれば何でも直るだろ! ったく、うっせーな。車出してやるからホムセン行くぞ』
「ヒャッハー。サンキュー」
やって来ました。ホームセンター。
いそいそとダクトテープを探す淳。
しぶしぶ付き合う秀之。
淳がアタリを付けたのは、建材売り場。
養生テープ。
マスキングテープ。
ガムテープ。
……?
ダクトテープは?
お。エアコンのホースの近くに発見。
んん? 思ってたのと違う。
白いし、ペラい。
あんれー?
ぐるぐるグルグル。
売り場を回る淳。
「なあ、あれじゃね?」
秀之の指さすコーナーに積まれたテープ。
山の上には⋯⋯ゴリラの絵。
「あ、あれが有名な⋯⋯」
「有名な?」
「ゴリラテープ」
アメリカでの必需品、ダクトテープ。
その頂点に立つダクトテープ。トップ・オブ・ダクトテープ。(いいすぎ)
通常の3倍の粘着力。用途は様々。
耐水性。濡れているところにも貼れる。
その『ゴリラ』のロゴは信頼と性能の証。
厳格な基準を満たした製品にのみ、つけられるという。
「かっけえ。男前」
「惚れるな。それにしても、ごついなあ」
淳はテープの山の頂からひとつ取り出し、掲げ持つ。
「買う。出会えたこの日に感謝を」
「大袈裟な。でも、そんなに強力な接着力なら、剥がすの大変じゃね?」
「んー、それはそれだよ」
「おまえの神経質は全方向じゃねえのかよ」
「んー、それはそれだよ。あんまり気にすると胃液が逆流するぞ。ハッハッハ」
「それはおまえだろうが。いいけどよ。欲しいものがあったんなら」
「ウッホー。レジ行ってきまーす」
全開の笑顔で拳をつき上げ、一直線にレジに向かう淳。
見送りつつ、秀之はひとつ手に取った。
男前なゴリラのロゴを見つめ、ふいに気づく。
──バイクショップに連れていけば良かったんじゃね?
いやいや。いいんだ。
きっとバイクと一緒に行きたいんだろう。
うん。うん。
この優しき生き物を見習って、自分も広い心を持つんだ。
秀之は少し引っかかりながらも納得する。
淳は戻るなり、秀之の肩を右手でポンポンと叩いた。
左手でレジ袋をブンブン振り回しながら。
「秀之ー。思ったんだけどさー。この後バイクショップ連れてってくれー」
「──ああ? おまえ一人で行けや!」
プンスカ怒りながら秀之は(淳の襟首を掴みつつ)ホームセンターを後にした。
残念。
秀之にゴリラ道はまだまだ遠いようだ。
お読みいただきありがとうございます。
『ワインの涙 ~他愛も無い日々~』出張版です。
やっぱり斜め上にしか飛んでいきませんでした。
『ゴリラ』といったらこれしか浮かんでこなかった「なければ作ればいいじゃない」の民。
そして、某アメリカのゲームにはロケーションに必ず1個は落ちているダクトテープ。
まず最初にしたのは規約を読み直す事(笑)。
猫の食欲増進剤の時にも調べましたが、もう一度。
実在するダクトテープです。
念のため記しておきますが、営利目的ではありません。
(影響力皆無ですしね?)
淳と秀之はアラサーでやりたかったんですが、日本での正規輸入品が2019年からだったので、アラフィフになりました。




