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『ゴリラ』 それは信頼の証

作者: 麻生あきら
掲載日:2026/09/24

本作は清坂正吾様主催の個人企画『ゴリラパーティー』の参加作品です。

「あ、サドルバッグの口が壊れた」


 斉川 淳はバイクが好き。

 特に、あのお高いアメリカンバイクが。


 暇さえあれば、ウキウキで磨いちゃうくらい好き。

 もちろんツーリングも好き。


 そんな愛するアメリカンバイクに取り付けたサドルバッグ。

 ほんの少し壊れかけている。


 あの時か? それともこの時か? と、思い返す。

 見て見ぬふりをしたような、そんな気がしないでもなかった。




 このままでは走行中に中身をぶち撒けるかもしれない。

 中身を空にしてしまえばいいのか?


 いや、でも、壊れたままではバイクショップにも行けない。

 と言うよりも、行きたくない。


 サドルバッグを一旦外して行くか?

 でも、直せるものなら直したい。


 さてどうしたものか。

 延々と回り続ける思考。


 工具箱、引き出し、棚。

 ゴソゴソと手を入れて探すも、欲しい物が見つからなかった。

 買いに行くしかない。

 だが、バイクには乗れない(乗りたくない)。

 通販では時間がかかる。


 ──あっ。奴ならきっと!


 スマホを取り出し、迷いなくタップ。




「よぅ、ひでゆきー。あれ持ってないかー?」

 アラフィフだというのに、甘えた声を出す淳。


 スピーカーからはいつも通り不機嫌な声。

 小学校からの腐れ縁、能代秀之だ。

『あれってなんだよ? てか、いきなり何?』


「あー、ごめーん。サドルバッグがさー、壊れたんだわ。ちょっとくっつけてからショップに行きたいわけよ」

『くっつけるって、接着剤?』

「違う違う。ダクトテープ」

『⋯⋯ガムテープでいいだろ? 歩いて百均に行けばあるじゃん』


 ムッ。

 淳はちょっとだけキレた。


「俺のバイクはアメリカンだぞ。ダクトテープ一択だ!」

『はあ!? 意味が解らん!』


「アメリカと言ったらダクトテープだろうが! ダクトテープがあれば何でも直る! のアメリカの精神(スピリッツ)だ!」

『ここは日本だぞ! ガムテープがあれば何でも直るだろ! ったく、うっせーな。車出してやるからホムセン行くぞ』


「ヒャッハー。サンキュー」




 やって来ました。ホームセンター。

 いそいそとダクトテープを探す淳。

 しぶしぶ付き合う秀之。


 淳がアタリを付けたのは、建材売り場。

 養生テープ。

 マスキングテープ。

 ガムテープ。



 ……?

 ダクトテープは?

 お。エアコンのホースの近くに発見。

 んん? 思ってたのと違う。

 白いし、ペラい。


 あんれー?

 ぐるぐるグルグル。


 売り場を回る淳。



「なあ、あれじゃね?」

 秀之の指さすコーナーに積まれたテープ。

 山の上には⋯⋯ゴリラの絵。


「あ、あれが有名な⋯⋯」

「有名な?」


「ゴリラテープ」


 アメリカでの必需品、ダクトテープ。

 その頂点に立つダクトテープ。トップ・オブ・ダクトテープ。(いいすぎ)


 通常の3倍の粘着力。用途は様々。

 耐水性。濡れているところにも貼れる。


 その『ゴリラ』のロゴは信頼と性能の証。

 厳格な基準を満たした製品にのみ、つけられるという。


「かっけえ。男前」

「惚れるな。それにしても、ごついなあ」


 挿絵(By みてみん)


 淳はテープの山の頂からひとつ取り出し、掲げ持つ。


「買う。出会えたこの日に感謝を」

「大袈裟な。でも、そんなに強力な接着力なら、剥がすの大変じゃね?」

「んー、それはそれだよ」


「おまえの神経質は全方向じゃねえのかよ」

「んー、それはそれだよ。あんまり気にすると胃液が逆流するぞ。ハッハッハ」


「それはおまえだろうが。いいけどよ。欲しいものがあったんなら」

「ウッホー。レジ行ってきまーす」


 全開の笑顔で拳をつき上げ、一直線にレジに向かう淳。

 見送りつつ、秀之はひとつ手に取った。




 男前なゴリラのロゴを見つめ、ふいに気づく。


 ──バイクショップに連れていけば良かったんじゃね?

 いやいや。いいんだ。

 きっとバイクと一緒に行きたいんだろう。

 うん。うん。

 この優しき生き物を見習って、自分も広い心を持つんだ。


 秀之は少し引っかかりながらも納得する。



 淳は戻るなり、秀之の肩を右手でポンポンと叩いた。

 左手でレジ袋をブンブン振り回しながら。


「秀之ー。思ったんだけどさー。この後バイクショップ連れてってくれー」


「──ああ? おまえ一人で行けや!」

 プンスカ怒りながら秀之は(淳の襟首を掴みつつ)ホームセンターを後にした。


 残念。

 秀之にゴリラ道はまだまだ遠いようだ。

お読みいただきありがとうございます。

『ワインの涙  ~他愛も無い日々~』出張版です。


やっぱり斜め上にしか飛んでいきませんでした。

『ゴリラ』といったらこれしか浮かんでこなかった「なければ作ればいいじゃない」の民。

そして、某アメリカのゲームにはロケーションに必ず1個は落ちているダクトテープ。


まず最初にしたのは規約を読み直す事(笑)。

猫の食欲増進剤の時にも調べましたが、もう一度。

実在するダクトテープです。

念のため記しておきますが、営利目的ではありません。

(影響力皆無ですしね?)


淳と秀之はアラサーでやりたかったんですが、日本での正規輸入品が2019年からだったので、アラフィフになりました。

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― 新着の感想 ―
 麻生あきらさん、こんにちは。 「『ゴリラ』 それは信頼の証」拝読致しました。  バイクについている、サドルバック。  どうしよう、ショップに修理に行く間に壊れても困るし。  あ、あいつなら、持…
ゴリラテープが出てくるとは……。確かにダクトテープの頂点にして、信頼の証。タイトルどういうこと?と思っていたので回収してくださってありがとうございます。 文句を言いながらも、しぶしぶ付き合う秀之さんは…
 おおっ⁈ あれってそういう名前だったんですね。そしてそういうイメージで売っていた。  これは知らない話でした。私の中じゃ所詮テープはテープ、そこまで意識したことはなかったので。だから凄い強力な黒いテ…
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