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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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収穫期の終焉と、白銀の才能


初心者都市『エリュシオン』から西へ数キロ。

赤茶けた岩山と古代遺跡が点在する荒野を、俺――アイズドは、後ろからトテトテとついてくる白銀の髪の少女を引き連れて歩いていた。

視界の端に常時表示させているシステム時計リアルタイムをチラリと確認し、俺はふと、誰に言うともなく呟いた。



「……そろそろ、今の《収穫期》も終わりか」

「しゅうかくき?」



俺の独り言を拾い上げたルナが、小走りで真横に並びつき、サファイアブルーの瞳をパチクリと瞬かせた。



「あの、アイズドさん。シュウカクキって、なんですか? ゲームの中でお米とか野菜を育てるイベントがあるんですか?」

「農業ゲームじゃねえよ。EHOの『環境サイクル』の隠語だ」



俺は前を向いたまま、クソ簡単な説明を手短にしてやることにした。



「このEHOってゲームはな、世界の管理者であるAI『アルファ』によって、三ヶ月ごとに大規模なアップデートが強制的に行われる。その三ヶ月のサイクルには、大きく分けて二つの期間があるんだ」

「二つの、期間……」

「一つ目は、アップデート直後の第一ヶ月目。既存のボスの行動パターン(タイムライン)が変わり、未発見の《ワールドクエスト》が追加される。誰もボスの倒し方がわからず、理不尽な即死ギミックでプレイヤーたちがバタバタと死にまくる地獄の期間だ。これを、攻略法を探るという意味で『探求期』と呼ぶ」



俺は足元の小石を蹴り飛ばしながら続ける。



「で、残りの二ヶ月が『収穫期』だ。頭のおかしいトッププレイヤーや解析班が、血を吐くような思いでボスの《最適解マニュアル》を作る。それがネットで共有されると、あとは全員がそれに従って、作業のように効率よくボスを倒してレアアイテムを回収するだけになる。……今のEHOは、その収穫期の本当にギリギリ最後のタイミングってわけだ」

「なるほど……。じゃあ、もうすぐその『アプデ』が来て、また地獄の探求期が始まるってことですね!」

「理解が早くて助かる。そういうことだ」

コクリと頷いたルナだったが、ふと立ち止まり、首をコテッと傾げて俺の顔を覗き込んできた。

「でも、アイズドさん。なんで今日始めたばかりの初心者なのに、そんな運営やトッププロが気にするような裏側のシステムまで知ってるんですか? さっきの魔法を斬る小技といい、なんだか変ですよ」

「ッ……」



無垢な瞳による、鋭すぎる追及。

俺は一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐにわざとらしい呆れ顔を作って肩をすくめた。



「……お前なぁ、少しはネットの検証掲示板とかまとめサイトを見ろ。こんなの、ちょっと調べればどこにでも書いてあるオタクの一般常識だ」

「えー? 本当ですかぁ?」

「本当だ。それより、人の心配をしてる場合か」

ジト目を向けてくるルナから強引に話題を逸らすため、俺はインベントリを操作した。

「お前、チュートリアルは飛ばしたって言ってたな。レベルを上げるにしても、まずは自分の《基本職クラス》を決めなきゃ始まらねえぞ」

「あ, そうでした! ええっと、剣とか、魔法とかですよね。私、なにがいいと思いますか?」

「それをこれから実戦で見るんだよ」



俺はインベントリから、初期装備のなまくらなショートソードを取り出し、ルナに向けて放り投げた。



「わわっ!」



ルナは慌てて両手で剣の柄を受け取る。



「武器を構えろ。ちょうどいい『テストケース』がポップしたぞ」



俺が顎でしゃくった先。

岩肌の陰から、カサカサと乾いた足音を立てて一体のモンスターが姿を現した。

体長一メートルほどの、巨大なカマキリの怪物。

頭上に浮かぶカーソルは赤色で、名前は『デザート・マンティス』。レベルは二。

初心者にとっては最初にぶつかる壁となる、攻撃的なアクティブモンスターだ。



「ひゃっ!? む、虫……! 虫はちょっと……!」

「泣き言を言うな。あいつの攻撃パターンは二つだけだ。右の鎌の『横薙ぎ』か、両手の鎌の『振り下ろし』。最初はシステムアシストの赤い光(予兆)が出るから、それを見てから躱して、反撃を入れろ」



俺は腕を組み、岩を背にして傍観の態勢に入った。



(さて、どう動くか。ステータスは最低値。完全にテンパって逃げ回るなら、後方から支援する遠隔魔法職マジシャンかヒーラーを勧めるが……)



「シャアァァッ!」



デザート・マンティスが威嚇の鳴き声を上げ、ルナに向かって跳躍した。



「ひぅっ……!」



ルナはビクッと肩を震わせた。

――だが。

俺の三白眼は、彼女の『足元』の異常な動きを見逃さなかった。

恐怖で後ずさるかと思われた彼女の右足は、逃げるのではなく、マンティスの着地点を予測するように、半歩だけ斜め前方へと『踏み込んで』いたのだ。



(なんだ……!?)



マンティスの右の鎌が、赤い光を帯びて横薙ぎに振り抜かれる。

普通なら、初心者は大きく後ろにバックステップして回避しようとする。しかし、レベル一のステータスでは絶対に回避フレームが間に合わない。

しかしルナは、まるで何かに導かれるように、上半身をスッと沈み込ませた。

轟音と共に、巨大な鎌がルナの白銀の髪を数ミリだけ掠めて通り過ぎる。



『最小限の動作による、フレーム回避』



(偶然か!? いや、違う。あいつ、無意識に敵の肩の関節(初動)を見て、攻撃の軌道を完全に読んで――)



俺が驚愕に目を見開いた、その次の瞬間だった。



「えいっ!」



沈み込んだ前傾姿勢から、ルナの身体がバネのように弾け飛んだ。

右手に握られたショートソードが、一切の無駄な遠心力を排除した最短距離の『突き』となって、がら空きになったマンティスの胸部コアへと吸い込まれていく。

『ガシィィィンッ!!』

システムが《クリティカル・ヒット》を判定し、真紅のエフェクトが荒野に炸裂する。

マンティスの巨体が大きくのけぞり、HPバーが一気に七割近く削り飛ばされた。



「……は?」



俺の口から、間抜けな声が漏れた。



「あ、あれ? 意外と剣って軽いんですね。よーし、もう一回!」



ルナは怯むどころか、反撃しようと体勢を立て直すマンティスに対し、さらに深く踏み込んだ。

今度は両手の鎌による『振り下ろし』。

彼女はそれを、剣でガードするのではなく、相手の懐に潜り込むようなステップでいとも容易く躱し、振り返りざまにマンティスの背後から袈裟斬りを叩き込んだ。

『ピシィィィン!!』

二度目のクリティカル・エフェクト。

デザート・マンティスは悲鳴を上げる間もなく、膨大なポリゴンの塵となって四散した。



『戦闘終了(Battle End)。経験値を獲得しました』

「わぁ! 倒せました! アイズドさん、見ましたか!?」



ルナは血振りをするようにショートソードを軽く振り下ろすと、花が咲いたような笑顔で俺の方を振り返った。



「…………」



俺は、腕を組んだまま完全に硬直していた。

背筋に、得体の知れない悪寒のようなものが走っている。



(こいつ……路地裏で初心者狩りにビビってたのは、単に『対人戦の仕様システムルール』を知らなくて混乱してただけか……!)



いざ戦闘行為アクションという枠組みに放り込まれた瞬間、彼女が見せたあの動き。

敵の予備動作をコンマ秒で見切る『動体視力』。

ミリ単位で攻撃の軌道を躱す『空間把握能力』。

そして何より、一切の無駄なく急所を貫く『踏み込みの深さと体幹の強さ』。

あれは、ゲームのシステムアシストに頼った動きではない。現実世界リアルの肉体で培われた、純粋な武術やスポーツの『生体反射センス』そのものだ。



(おいおい……冗談だろ。近接戦闘職メレーなら、どこでもトッププロを張れるレベルの狂ったセンスじゃねえか……)



俺は、目の前で無邪気に喜んでいる美少女の底知れなさに、文字通り『ドン引き』していた。



「アイズドさん? どうしたんですか、そんな顔して。私、変な動きしてました?」



ルナが不思議そうに小首を傾げる。



「……いや。お前、リアルで何か格闘技とか、スポーツやってたのか?」

「え? はい。一応、小さい頃から少しだけ護身術みたいなものを……。でも、ゲームの中で役に立つなんて思いませんでした!」

(少しだけのレベルじゃねえよ……。どんな英才教育受けてきたんだ、こいつは)



俺は深い溜め息を吐き、額を押さえた。

ただの足手まといの初心者だと思っていたが、とんでもないダイヤの原石バケモノを拾ってしまったらしい。



「……ルナ。お前の基本職は《素浪人ファイター》で決定だ」

「素浪人! 剣を使うかっこいいやつですね! わかりました!」

「ああ。その才能、俺が最短最速で『カンスト』まで育て上げてやる。覚悟しておけよ」



俺が獰猛な笑みを浮かべて言い放つと、ルナは嬉しそうに「はいっ!」と元気よく返事をした。

明日には、EHOの世界は地獄の『探求期』へと突入する。

そして俺を追放した連中は、俺の残したマニュアルが通用しなくなり、絶望の淵に立たされることになる。

だが、俺には関係のないことだ。

俺は興味本位で拾い上げたこの規格外の初心者カモと、この最強の玩具(古代変形機装)と共に、この『終わらない神ゲー』をただ純粋にしゃぶり尽くすだけだ。

荒野の風が、俺の黒い長髪と、ルナの白銀の髪を同時に揺らした。

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