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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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19/22

SOS


『ウオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

「素晴らしい!! これぞ戦士の舞だ!!」

「なんという一撃! 人間族の勇者に栄光あれ!!」


静まり返っていた観客席から、数万のフェネキアの民による、地鳴りのような大歓声と拍手が巻き起こる。

すり鉢状の大闘技場コロッセオは、俺たち――アイズドとルナのあり得ない大番狂わせ(ジャイアントキリング)を称賛する熱狂の渦に包まれていた。


「やりましたね、アイズドさん! 私たち、本当に勝っちゃいました!」

花が咲いたような笑顔で駆け寄ってくるルナ。

その姿を見て、俺は《古代変形機装》をデフォルトのガントレットに戻し、熱い息を長く吐き出した。

プロが八人がかりで作る盤石なマニュアルの攻略。それも確かに、一つのゲームの形だ。

だが、今のこの胸を焦がすような極限の死闘とカタルシスに比べれば、あんなものはただの退屈な事務作業に過ぎない。


「……ああ。お前の言う通りだったな、ルナ」

俺は、前髪の奥の三白眼を細め、心からの笑みをこぼした。

「やっぱり冒険は……楽しんだ奴の勝ちだ」

「はいっ!」

俺たちが勝利の余韻に浸り、互いの健闘を称え合おうとした、まさにその時だった。



『――見事。実に見事な戦いぶりでした、人間族の勇者よ!』


闘技場の最上段、貴賓席から族長セレンの艶やかな、そしてひどく楽しげなアルトの声が木霊した。

彼女の背後で、九本の黄金色の尻尾がゆらゆらと大きく揺れている。


『これほどまでに美しく、狂気的な戦いを見せられるとは。我が同胞たちの血も、かつてないほどに滾っております!』


セレンが両手を広げると、観客席のフェネキアたちの歓声がさらに一段階跳ね上がった。


「おう、大将。これで俺たちの実力は証明できたな。さっさと『古代の悪意』とやらの情報を――」


俺がそう要求しかけた瞬間、セレンは悪戯っぽい笑みを浮かべて、言葉を続けた。


『ええ、あなた方の力は十分に理解いたしました。ですが……盛り上がっているところ大変申し訳ないのですが、先ほどの【古代合成獣キメラ・マキナ】は、あくまで我々が用意した『小手調べ』の余興に過ぎません』

「…………は?」


俺の口から、間の抜けた声が漏れる。隣のルナも、ポカンと口を開けて固まっていた。


『本当の試練はここからです。さあ、我が里に封じられし真の古代魔獣よ、その枷を解き放ち、彼らに絶望を与え――』

「ストォォォォォォップ!!!」



俺は、肺活量の限界まで息を吸い込み、闘技場全体に響き渡る声で叫んだ。


「ふざけんな! ふざけんなこのクソAIが!! こっちはあの理不尽キメラを倒すのに十九回も死に戻りしてんだぞ! 俺の脳内処理能力タスクはもう限界だ! これ以上連戦なんかしたら、現実リアルで泡吹いて倒れるわ!」


俺の悲痛な叫びに、ルナもハッとしてブンブンと首を縦に振った。


「そ、そうです! 私ももう、足がガクガクで一歩も動けません! 今日はもう無理です、お腹いっぱいですぅ!」

俺たちのあまりに情けない抗議を聞いて、族長セレンはポカンとした後、クスクスと優雅に笑い出した。

『……ふふっ。どうやら、少し意地悪が過ぎたようですね。人間族とは、我々フェネキアほど連続した闘争を好まない種族であったことを失念しておりました』

セレンが手を軽く振ると、開こうとしていた闘技場の別の鉄格子が、ガシャンと音を立てて再び閉ざされた。


『よろしい。真の試練は、あなた方の疲労が回復した後にいたしましょう。我が地下都市の客室を解放しますので、存分に英気を養ってください』

「……助かる」


俺は地面にドカッと座り込み、深く、深く安堵の息を吐き出した。

もしあそこで連戦が始まっていたら、確実に全滅していただろう。ユニークシナリオ特有の「プレイヤーの疲労を一切考慮しない設計」には本当に腹が立つ。

だが、なんとか猶予を勝ち取ることはできた。


「アイズドさん……私、もう本当に限界です。頭がぼーっとしてきました」


ルナがフラフラとした足取りで俺の隣に座り込み、力なく笑う。

無理もない。完全な初心者が、極限の集中力でレイドボス級の攻撃を避け続けたのだ。現実の精神的な疲労ログアウト・シックは相当なものだろう。


「ああ、今日はここまでだ。ログアウトするぞ」


俺は空中にシステムウィンドウを展開した。


「ユニークシナリオの途中だが、この地下都市の中はセーフエリア扱いになっている。ここでログアウトすれば、明日も同じ場所から再開できるはずだ」

「はい……。あ、そうだ! アイズドさん!」


ルナは何かを思い出したように顔を上げ、空中の仮想キーボードを操作した。


『プレイヤー“LUNA”からフレンド登録の申請が届きました』


俺の視界に、小さな通知ウィンドウがポップアップする。


「今日は本当にありがとうございました。私、一人だったら絶対にあの初心者狩りの人たちに騙されて、嫌な思いをしてゲームを辞めてたと思います」


ルナは、サファイアブルーの瞳を真っ直ぐに俺に向けた。


「でも、アイズドさんが助けてくれて……厳しいけど、ゲームの戦い方を教えてくれて。こんなに凄い冒険ができて、本当に、本当に楽しかったです!」

「…………」


その真っ直ぐすぎる感謝の言葉に、俺は少しだけ気恥ずかしくなり、そっぽを向いた。

相棒と呼ぶには、まだお互いを知らなすぎる。俺はただ、彼女の異常な才能に興味本位で同行を許しただけだ。

だが、こいつの決して折れない負けず嫌いな性格は、嫌いじゃない。


「……フン。お前が勝手についてきただけだろ。それに、俺は自分の遊びに付き合わせただけだ。……だが、まあ、悪くない戦いだった」


俺は照れ隠しに悪態をつきながら、『承諾(ACCEPT)』のボタンを押下した。


『フレンド登録が完了しました』

「えへへ、やりました! ……アイズドさん、明日も、来ますよね?」

「当たり前だ。このままじゃ終わらねえからな。明日も、今日の続きで地獄の特訓をしてやる。覚悟して来いよ」

「はいっ! お休みなさい、アイズドさん!」

ルナは大きく手を振り、光の粒子となってEHOの世界からログアウトしていった。

彼女が消えたのを見届けた後、俺もまた、システムメニューから『ログアウト』を選択し、現実世界への帰還プロセスを受け入れた。


◆ ◇ ◆


「――はぁっ!」


現実の自室。

漆黒の流線型を描くVRカプセルのハッチが開き、俺――神代 冬司は、深く息を吸い込みながら上体を起こした。


「……疲れた。マジで、脳みそが焼き切れそうだ」


こめかみから生体センサーの端子を外し、汗ばんだ前髪を掻き上げる。

全身に重くのしかかる疲労感。だが、それは決して不快なものではなかった。

むしろ、長らく忘れていた『ゲームを全力で楽しんだ』という、心地よい達成感に満ち溢れていた。

ベッドから立ち上がり、シャワールームへと向かう。

熱いシャワーを浴びながら、俺は今日の出来事を振り返っていた。

(ルナ、か)

白銀の髪を持つ、無垢でしたたかな少女。

俺は彼女に「ゲームの基本」を教えたつもりだった。

だが、本当に大切なことを教えられたのは、俺の方だったのかもしれない。

利益、効率、最適化、数字。

そういったプロのしがらみに囚われ、いつの間にか「作業」になっていたゲーム。

それを、ただ「楽しいから」という純粋な感情だけでぶち壊し、俺にゲーマーとしての『本懐』を思い出させてくれた。

(相棒って呼ぶには、まだまだひよっこだが……。まあ、しばらくは付き合ってやるのも悪くない)

そんなことを考えながらシャワーから上がり、タオルで濡れた髪を拭きながら、リビングのデスクに放り投げてあったスマートフォンを手に取る。

画面をタップすると、メッセージアプリに一通の新着通知が来ていることに気づいた。


「ん……?」


画面に表示されていた送信者の名前に、俺の動きがピタリと止まる。

『水瀬 美怜』

それは、俺が昨日まで所属していたプロチーム『白騎士団』のメンバーであり、パーティのヒーラーを務めていたエルフの少女――ミレイの本名だった。

(ミレイから? チームをクビになった俺に、今更何の用だ……?)

嫌な予感を覚えながら、メッセージのプレビューを開く。

そこには、普段の控えめな彼女からは想像もつかないような、切羽詰まった文面が記されていた。

『ジンさん、突然ごめんなさい。夜分遅くに本当にごめんなさい。でも、どうしても……どうしてもジンさんに相談したいことがあって……』

画面越しにすら伝わってくる、彼女の悲痛なSOS。

明日には、EHOの大型アップデートが適用され、既存の常識がすべて覆る地獄の『探求期』が始まる。

俺という絶対的な土台(盤石)を失った白騎士団の内部で、いったい何が起きているのか。

俺は少しだけ眉間を揉み解し、タオルを首にかけたままで、彼女のメッセージの詳細を開いた。


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