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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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13/22

最適化された狂気



「ぐぅぅ〜……」


薄暗いテントの中、フェネキアの老商人とのシリアスな空気の真ん中で、ルナの腹の虫が間抜けな音を鳴らした。


「……あ」


ルナは真っ赤になってお腹を押さえ、俺――アイズドは呆れ顔で天を仰いだ。


「あの、その……現実リアルの方で、お腹が空いちゃって……。ダイブしてから結構時間経ちましたし……」


「わかった、わかったから。ネトゲの基本は『リアルの生活を優先すること』だ。飯を食ってこい」


俺がそう言うと、ルナはホッとしたように表情を緩め、老商人に向かって深々と頭を下げた。


「おじいさん、ごめんなさい! どうしてもご飯を食べなきゃいけなくて……少しだけ、ここで待っててくれますか?」


「ええ、もちろん。あなた方は我が一族の恩人。何日でも、この天幕でお待ちしておりますぞ」


EHOの精巧なAIで制御されたフェネキアの商人は、長い狐の耳を揺らしながら優しく微笑んだ。ユニーククエストの進行フラグが立っているため、彼が勝手にどこかへ消えることはない。


「じゃあアイズドさん、急いで食べて戻ってきますね! まだ一人で進めちゃダメですよ!」


「はいはい。早く行け」


ルナはピシッと敬礼をした後、システムメニューから『ログアウト』を選択し、光の粒子となって仮想世界から現実世界へと帰還していった。


◆ ◇ ◆


ルナがログアウトした後。

俺は野営地を出て、人気のない『西の荒野』の深部へと一人で移動していた。


(あいつが飯を食って風呂に入って戻ってくるまで、約一時間ってところか)


その隙間時間を利用して、俺にはやっておかなければならないことがあった。

それは、手に入れたばかりのこの規格外のジョブ――《古代変形機装》の『限界値』の測定である。


「よし、ちょうどいい群れがいるな」


岩山に囲まれた盆地に、レベル七のアクティブモンスター『デザート・リザードマン』が五体ほど群れているのを発見する。

俺のレベルはまだ三。普通なら絶対にソロで手を出してはいけない格上の群れだ。


俺は右腕のガントレットを鳴らし、息を吸い込んだ。


「いくぞ。――《展開シフト》!」


光と共に武器を『魔導銃』へと変形させ、遠距離から先制攻撃を仕掛ける。

着弾と同時に激昂した五体のリザードマンが一斉に迫り来る。


俺は瞬時に『戦斧』へ変形させて一体の攻撃を弾き、その反動を利用して『大剣』で二体目を斬り伏せ、死角からの攻撃を『大盾』で防ぎ、すぐさま『双剣』に変形させて三体目の背後に回り込む――。


『ガシィィィン!!』

『キィィィンッ!!』


凄まじい速度でクラスチェンジを繰り返し、GCDグローバルクールダウンを一切腐らせることなく、三十種の独立したスキルを次々と叩き込んでいく。

五分後、俺の周囲にはリザードマンたちがポリゴンの塵となって舞い散っていた。


『戦闘終了(Battle End)。経験値を獲得しました。レベルが上がりました』


無傷での完全勝利。

だが。


「……っ、はぁっ、はぁっ……!」


武器をガントレットに戻した瞬間、俺は膝から崩れ落ち、荒い息を吐き出した。

現実の肉体はベッドで横たわっているはずなのに、脳の奥底が焼け焦げるような強烈な『疲労感』と『目眩』に襲われたのだ。


「……やっぱり、か。薄々は感づいていたが」


俺は仮想の汗を拭いながら、自分のステータス画面を睨みつけた。


《古代変形機装》は、間違いなくシステムを凌駕する最強の武器だ。

しかし、その強さを引き出すためには、三十種類ものクラスのスキルツリーと、それぞれ独立したクールダウンタイマーを『常に脳内で並列処理』し続けなければならない。


敵の予備動作を見て、三十の選択肢の中から「今どの武器に変形させるのが最適か」をコンマ秒で判断し、実行する。

短時間の戦闘なら問題はないが、これが『レイドボス』相手の三十分以上に及ぶ長期戦になったらどうなる?


「……十分も持たずに、俺の脳(タスク処理)がパンクするな」


いくら俺がプロの軍師として異常な演算能力を持っていたとしても、人間の脳のキャパシティには限界がある。無限の選択肢を毎秒リアルタイムで選び続けるという行為は、あまりにも脳への負荷タスク・ローディングが高すぎるのだ。


「最強の武器だが、このままじゃピーキーすぎて使い物にならない。……なら、どうする?」


俺は岩肌に背を預け、目を閉じて思考の海へと深く潜り込んだ。

情報戦略のスペシャリストとしての、プロの顔が戻ってくる。


「……無限の選択肢があるから、脳が疲弊する。なら、最初から『選択肢を固定化』してしまえばいいんだ」


俺は目を開き、空中にホログラムのメモウィンドウを展開した。

三十種の武器をその都度アドリブで選ぶのではなく、状況に合わせた【固定のコンボルート(ローテーション)】をいくつか構築し、それを『手癖』になるまで体に覚え込ませるのだ。


「まずは、対複数の【雑魚殲滅用パターン】だ。派手な魔法は爆発音で周囲のプレイヤーや無用なモンスターのヘイト(注意)を引くリスクがある。ここはシンプルかつ静かな近接の範囲攻撃でまとめるべきだな」


俺は空中に浮かぶ三十種のアイコンから、必要なピースだけを抜き出して繋ぎ合わせていく。


「初手は《シャドウウォーカー(影潜り)》の双剣に変形して、気配と足音を殺したまま敵陣の中心へ高速接近ステップする。直後に《ソウルテイカー(魂刈り)》の大鎌に変形し、自身のファントムと連携した広範囲の薙ぎ払いで群れの体勢を一気に崩す。そして敵が怯んだ隙に、すぐさま《ブレイドマスター(絶剣)》へと変形し、隙のない剣技の連撃で一掃する」


高速接近 → 広範囲の崩し → 剣技による殲滅。

たった三手の近接特化ローテーション。魔法のような派手な音も光もないが、GCDを完全に無視したその連撃は、音もなく敵の群れを刈り取る完璧な暗殺陣だ。


「次は、レイドボス級の理不尽な攻撃に対する【ボス戦防御カウンター用パターン】だ」


俺は別のアイコンを引っ張ってくる。


「ボスの大技が来る直前に、《ファランクス(重装方陣兵)》の大盾に変形して『絶対防御インビンシブル』のスキルでダメージを無効化。敵の攻撃後硬直を狙って、瞬時に《イアイカスター(抜刀術士)》に変形し、溜め不要で『最大火力の居合抜き』を叩き込む。その直後、敵の反撃を避けるために《スカルド(戦歌詠み)》の弓に変形し、『後方跳躍バックステップ』のスキルを使いながら自身に移動速度アップのバフをかける」


大盾防御 → 居合カウンター → 弓によるバフ付き離脱。

攻防一体にして、一切の隙がない完璧なループ。


「……よし。他にも【単体継続火力用】や【緊急回復用】のルートをいくつか組んでおけば、普段の戦闘で脳の処理リソースを消費しなくて済む」


コンボルートを固定化し『無意識』で回せるようになれば、俺は余った脳の処理領域リソースを、敵の未知のギミック解析や、パーティメンバー(ルナ)の動向把握といった『マクロ視点』に全振りすることができる。

これこそが、プロゲーマー・ジンが最も得意としていた『最適化の美学』だった。


「さっそく、体に覚え込ませるか」


俺は立ち上がり、首をポキキと鳴らした。

ちょうど前方に、新たなリザードマンの群れがリポップ(再出現)している。


「いくぞ。――《展開シフト》!」


俺は岩を蹴り、敵陣のど真ん中へと突っ込んだ。

思考の迷いは一切ない。あらかじめ設定した【雑魚殲滅用パターン】を、ただ手癖の通りに無意識下で入力していく。


双剣による死角からの高速接近。

大鎌による広範囲の薙ぎ払い。

剣技の流れるような連撃。


一連の動作が、先ほどまでのアドリブ戦闘とは比較にならないほど滑らかで、なおかつ異様な速度で繋がっていく。


『シャキンッ……ザシュゥゥゥッ!!』


爆発音一つ鳴らない静寂の中、鋭い刃の閃きだけが幾重にも交差し、五体のリザードマンが瞬きする間に全滅した。

戦闘を終えた俺は、大きく息を吸い込む。


「……軽い。脳の負担が、さっきの十分の一以下だ」


これならいける。

数十分、いや数時間に及ぶワールドクエストの死闘であっても、俺の脳が焼き切れることはない。

《古代変形機装》という扱いきれないじゃじゃ馬を、俺は己の知恵と計算によって、完全に『御して』みせたのだ。


「……ククッ。やっぱりゲームは、頭を回してナンボだな」


俺は漆黒のガントレットを見つめ、満足げな笑みをこぼした。


「おーい、アイズドさーん!」


その時、荒野の向こうから、大きく手を振りながらこちらに走ってくる白銀の髪が見えた。

ルナが現実での食事を終え、ダイブ(再ログイン)してきたのだ。


「待たせました! ご飯食べて、元気百倍です!」


「おう。遅かったな」


俺はガントレットを下ろし、いつもの無愛想な顔を取り繕って彼女を迎えた。


「じゃあ、準備も整ったことだし……あの爺さんを助けに『砂漠の隠れ里』とやらに向かうとするか。未知のユニークシナリオだ、何が起きるか分からねえぞ」


「はいっ! アイズドさんの背中、私がしっかり守りますから!」


武器の最適化を終え、懸念だった脳への負荷問題もクリアした。

準備は万端だ。


俺たちは顔を見合わせ、二人だけの秘密の冒険が待つ、広大な砂漠の奥地へと歩みを進めた。

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