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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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流砂の遺物と、未知なる砂狐


エリュシオンの西、荒野をさらに北上した先に広がる『北の流砂地帯』。

足を踏み入れるだけで移動速度が低下し、スタミナをじわじわと削られるという、初心者にとっては非常に厄介な環境デバフが設定されているエリアだ。



「せいっ……!」



ルナの鋭い掛け声と共に、彼女のショートソードが砂中から飛び出してきた大口の魔物――『サンド・ウォーム』の胴体を的確に一刀両断した。

『ピシィィィン!!』

クリティカル・エフェクトが弾け、巨大なミミズの魔物が光の塵となって消え去る。



「よし、これで五匹目ですね! アイズドさん、私やりましたよ!」



ルナが額に浮かんだ仮想の汗を拭いながら、花が咲いたような笑顔で振り返る。

俺――アイズドは、少し離れた岩の上から彼女の戦いぶりを見下ろしながら、小さく息を吐いた。



「ああ、上出来だ。予備動作を見てからフレーム回避するタイミングも完璧に掴んできてる。お前、本当に数時間前まで完全な素人だったのか?」

「ふふん、私の集中力を舐めないでくださいね! それに、アイズドさんの教え方が上手いからです!」



えっへんと胸を張るルナ。

実際、彼女の成長速度は異常だった。俺が《古代変形機装》を遠隔武器である『魔導銃』に変形させ、後方から軽く牽制ヘイトコントロールをしてやると、彼女はその隙を一切見逃さずに急所に攻撃を叩き込む。

連携の精度は、即席のパーティとは思えないほどに高まっていた。



「ま、調子に乗って足元を掬われるなよ。……それより、目的のブツは見つかったか?」

「あっ、はい! さっきの魔物が飛び出してきた砂のすり鉢の底に、木箱の残骸みたいなものがありました。これだと思います!」



ルナが砂まみれになりながら拾い上げてきたのは、依頼の品である『星屑のオルゴール』だった。

表面には星の意匠が施されており、手のひらに収まるサイズの古びた真鍮製の小箱だ。



「よし、これでクエストの達成条件はクリアだな。……ん?」



俺はルナが持ってきたオルゴールを受け取ろうとして、彼女の足元に転がっていた『もう一つのもの』に目を留めた。



「ルナ、その足元の黒い塊はなんだ?」

「え? ああ、これも一緒に砂に埋もれてたんですけど……ただの背景の石か、ガラクタの金属ゴミかと思って」



ルナが拾い上げて渡してきたそれは、オルゴールより一回り大きい、黒くくすんだ重厚な『金属箱』だった。

アイテムウィンドウで詳細を見ようとしても『謎の金属箱』としか表示されない。だが、その表面には、先ほど俺がジョブを手に入れた古代遺跡の石柱と同じような、かすかな幾何学模様が刻まれていた。

「ただのガラクタ、か……。まあいい、とりあえず持っていくぞ。野営地に戻る」



◆ ◇ ◆



『砂風の野営地』に戻った俺たちは、焚き火のそばに座り込んでいた依頼主の商人NPCの元へと向かった。



「おお……! 旅のお方、それはまさしく、砂嵐ではぐれた娘に渡すはずだった『星屑のオルゴール』! ありがとうございます、本当にありがとうございます……!」



老商人のNPCは、ルナからオルゴールを受け取ると、プログラミングされた感涙のモーションと共に深く頭を下げた。




『クエストクリア:経験値十、五十ゴルドを獲得しました』



視界の端に、ちっぽけなクリア報酬のログが流れる。



「やりましたね、アイズドさん!」




ルナが無邪気に喜ぶ横で、俺は空中に仮想ブラウザを展開し、EHOの最大手攻略サイトにアクセスしていた。

検索窓に『消えたキャラバンの足跡』と打ち込む。



【スレッド:西エリアの罠クエスト一覧】


『消えたキャラバンの足跡はやめとけ。移動時間とデバフの割に報酬がゴミすぎる』


『フレーバーテキストが無駄にエモいだけの初心者トラップ乙』



(……やはりな。プロの連中はおろか、一般の効率重視のプレイヤーも、一度クリアして「不味い」と分かれば二度と寄り付かない完全な『過疎クエスト』だ)



俺はウィンドウを閉じ、まだ俺たちに向かってお辞儀を繰り返している商人NPCを見下ろした。

そして、インベントリから先ほど拾った『謎の金属箱』を取り出す。



「おい、爺さん。この箱に、見覚えはあるか?」



俺が黒い箱を突きつけると、商人NPCはピタリと動きを止め、首を傾げた。



「いえ……? そのような無骨な箱は、私のキャラバンの荷物には含まれておりませんでしたが……」

「そうか。お前のものではないんだな」

「アイズドさん? なにか気になっているんですか?」



不思議そうに顔を覗き込んでくるルナを制し、俺は『星屑のオルゴール』と『謎の金属箱』を両手に持った。



「ルナ、お前は効率度外視でこの無駄なクエストを選んだ。だからこそ、普通のプレイヤーが見逃すような『違和感』を拾えたんだよ」

「違和感?」

「ああ。わざわざ環境デバフのある流砂の底に、クエストアイテムを配置している点だ。流砂は、重いものを一箇所に集める性質がある」



俺は、オルゴールの裏面――ゼンマイを巻くためのネジ巻き部分(凸)を、黒い金属箱の底面にある星型のくぼみ(凹)へとゆっくりと近づけた。



「もし、このオルゴールがただのフレーバーアイテムじゃなく、この箱の『鍵』そのものだとしたら?」



カチリ、と。

二つのアイテムの凹凸が、寸分の狂いもなく噛み合った。



「……えっ?」



ルナが息を呑む。

俺はそのまま、オルゴール自体を時計回りにギリギリと巻き上げた。

『ガコンッ……シュゥゥゥ……』

重低音と共に金属箱のロックが外れ、表面の幾何学模様が淡い蒼光を放ち始めた。

パカッと開いた箱の中から現れたのは、半透明のクリスタル――古代のデータ記録媒体だった。

その蒼い光を見た瞬間。

目の前にいた商人NPCの態度が、劇的に変化した。




「そ、それは……!! まさか、本当に実在していたなど……!」




老商人の瞳から、汎用NPC特有のハイライトのない光が消え、まるで本物の人間のように強い感情の揺らぎが宿った。

EHOの深層システムを管理する超高度AI『アルファ』が、このNPCの思考ルーチンを『通常モード』から『特別シナリオモード』へと上書きした証拠だ。

それと同時に、老商人のアバターを包んでいた「ヒューマン(人間族)」のポリゴンモデルが、ノイズを立てて崩れ去っていく。




「な、なんですかこれ……おじいさんの姿が……!」



驚くルナの目の前で、偽装システムカモフラージュが解けたNPCの真の姿が現れた。

身長は百三十センチほどの小柄な体躯。全身は過酷な砂漠の環境に適応した保護色である淡い砂色の毛並みに覆われ、頭部には砂中の僅かな振動すら聞き逃さないであろう、ピンと立った『巨大な狐の耳』。そして背後には、ふさふさとした狐の尻尾が揺れている。

砂漠の生物である「フェネック」をそのまま擬人化したような、愛らしくも野性的な獣人族の姿だった。



「アイズドさん! このおじいさん、耳と尻尾が……! ライカン(獣人族)の一種ですか!?」

「……いや、違う。ライカンにあんな小型の狐種は存在しない。それに、NPCの種族一覧や解析データにも、あんな造形のモデルは一つも載ってなかったはずだ」



俺の背筋に、ゾクゾクとするようなゲーマーとしての高揚感が走る。

砂漠に潜む、フェネックの擬人化種族。攻略サイトにすら一切の情報がない、完全な『未発見NPC種族』だ。




「旅のお方……いや、古代の叡智に触れし者よ。私の真の姿を見てなお、その剣を抜かないことに感謝いたします」



フェネックの獣人――『砂耳族フェネキア』と名乗った老商人は、深々と頭を下げた。



「お願いでございます! その『古代の記録晶』を、どうか私にお譲りいただけないでしょうか……! それは、かつて砂漠の深奥に隠された、我がフェネキア一族の秘境の扉を開く唯一の鍵なのです!」



俺とルナの視界が、突如として眩いフラッシュに包まれた。




『条件クリア:未発見種族【砂耳族フェネキア】との接触に成功しました』

『条件クリア:特定の隠しアイテムの合成に成功しました』

『ユニークシナリオ【古代竜の残響・第一章〜砂漠の隠れ里〜】を受注しました』



「ユニーク……シナリオ……!?」



ルナが信じられないというように、空中に浮かんだ黄金色のクエストログを見つめている。

俺は再び仮想ブラウザを立ち上げ、『古代竜の残響』『砂耳族』というキーワードで検索をかけた。

検索結果:〇件。



「……ハッ。マジかよ」



俺の口角が、限界まで吊り上がる。

海外のガチ勢や、何万人という解析班を抱えるトップギルドでさえ、まだ誰も見つけていない『完全未発見の連続クエスト』と『新種族』。

それを、効率を捨てて「楽しいから」という理由だけで遊びにいった初心者の少女と、追放された元プロのおっさんのコンビが、偶然にも引き当ててしまったのだ。



「ルナ。お前の言った通りだ」



俺は、唖然としている白銀の相棒の頭にポンと手を乗せ、クシャクシャと撫で回した。



「効率なんてクソ食らえだ。無駄を楽しむ冒険の方が、何百倍も『美味い』じゃねえか」

「あ、アイズドさん……髪が、髪がぐしゃぐしゃになりますぅ!」



文句を言いながらも、ルナもまた嬉しそうにサファイアブルーの瞳を輝かせ、目の前の可愛らしいフェネックの獣人NPCを見つめている。

EHOにおいて、ユニークシナリオと新種族の先行情報は、現実世界で億単位の金が動くほどの価値を持つ。

そんな世界の根幹に関わる爆弾の導火線に、俺たちはそうとは知らず、無邪気に火を点けてしまったのだった。


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