第十二話 世界はむかしは優しかった
世界は静かだった。
崩れた光の残骸の中で、時間だけがゆっくり沈んでいく。
灯は、もう立っているのか、崩れているのかも曖昧なまま、そこにいた。
ヒカルと世良。
そして、チヤ。
三人が、確かに“残った”。
チヤの数値は――99%で止まったまま。
でも、それでよかった。
それ以上に進めば、きっと、もう戻れなかったから。
ヒカルが、灯の前に立つ。
オレ。
そう名乗る、自分がなりたかった世界線の自分。
仲間と笑えて、守れて、隣に立てる強さは、ヒカルが持っていた。
灯は、少しだけ首を傾げる。
焦点の合わない目で。
それでも、確かにヒカルを見て――
震える手で、そっと頭を撫でた。
「……よくやったね……」
その声は、壊れかけていたのに。
不思議なくらい、優しかった。
灯は、笑っていた。
でも涙も流れていた。
ヒカルに、羨ましさ。
チヤに、愛。
世良に、友情。
そして――
自分に、喪失。
(羨ましいな……オレ……)
小さく、そう漏らす。
入れ替わりたかった。
託す、なんて綺麗なものじゃない。
全部、全部――そっちが欲しかった。
その時。
チヤが、一歩前に出る。
前の世界線では、片手だった。
でも、今回は違った
両手で、抱きしめた。
世良を、
ヒカルを。
ー。
強く。
逃がさないみたいに。
灯は、それを見て。
ほんの一瞬だけ、寂しそうにして――
すぐに、少し安心した顔になる。
ああ。
この子は、こっちを選んだんだ。
ちゃんと、生きるほうを。
灯は、チヤを見る。
チヤは、少しだけ唇を噛んで――
それから。
ぺろっと、あっかんべーをした。
泣きそうなくせに。
笑いそうなくせに。
いつもの、チヤの顔で。
「……ばーか」
声にならないくらい小さく、そう言った。
灯は、一瞬きょとんとして。
それから。
今度こそ、ちゃんと笑った。
「……ありがと」
静かにほどける。
灯は――
なりたかった自分に、全部を委ねて。
残骸のまま。
それでも、確かにそこにいた証を残して――
世界から、消えた。
ヒカルは、前を向く。
チヤの腕の中で。
世良と一緒に。
オレは、生きる。
――灯「オレ」達が、守った世界で。
世界は
むかし
優しかった
でも今は。
少しだけ
優しくなった
(完)




