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壊れた社畜の私に、異世界の魔法使いが「助けて」と言いに来た  作者: 百花繚乱


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3/4

第3話 止めた結果、救えなかったもの

※この話には、

気持ちよく勝つ展開はありません。


誰かを救うための判断が、

同時に、誰かを救えなかった結果を生みます。


「正しかったかどうか」より、

「それでも選ばなければならなかったか」

を描く回です。


軽くはありません。

でも、ここを避けると、この物語は嘘になります。

避難は、間に合った。


結界の裂け目から半径三百歩。

魔法使いの指示で、住民と兵は外へ誘導されている。


怒号と足音。

泣き声。

混乱はあるが、秩序は保たれていた。


「……よく、従ってくれたね」


私の呟きに、魔法使いは短く答えた。


「命令ですから」


その言い方が、少しだけ刺さった。

命令。

誰も、理由は聞いていない。


結界の裂け目は、相変わらず黒い。

広がってはいない。

でも、縮んでもいない。


「補強は?」


魔法使いは首を振る。


「まだです。あなたの判断通り」


三回のうちの一回目。

使っていない。


「……怖い?」


私が聞くと、魔法使いは少し間を置いてから答えた。


「はい」


正直だ。


「でも、あなたが止めた以上、私は止まります」


その言葉に、私は違和感を覚えた。


「それ、違う」


「……何が、ですか?」


「私が止めたから、じゃない。

 **あなたが止まると決めたから**だ」


魔法使いは、答えなかった。


代わりに、空気が震えた。


裂け目の縁が、わずかに崩れる。

黒が、滴るように落ちる。


「来る……!」


誰かが叫んだ。


次の瞬間、

裂け目から“何か”が、落ちてきた。


人影。


いや――違う。


魔力に焼かれ、形を失いかけた**人**だ。


「っ……!」


兵が駆け寄る。

私も、思わず一歩踏み出した。


「触るな!」


魔法使いの声が、鋭く飛んだ。


「内部に歪みが残っています!

 下手に触れれば――」


遅かった。


兵士の一人が、倒れた人間に手を伸ばす。


次の瞬間。


空気が、裂けた。


魔力の逆流。

小さな爆発。


兵士が吹き飛び、地面に叩きつけられる。


「――ッ!」


静まり返る。


倒れていたのは、若い兵だった。

動かない。


誰かが、膝をついた。


「……死んだ」


その言葉が、ゆっくりと広がる。


私の喉が、ひくりと鳴った。


避難は成功した。

結界は崩壊していない。


それでも――

**人は、死んだ。**


「……私が、補強していれば」


魔法使いが、そう呟いた。


声が震えている。


「一回使っていれば、

 裂け目は閉じられた。

 彼は、死なずに済んだ」


周囲の視線が、私に集まる。


責める視線。

戸惑う視線。

判断を仰ぐ視線。


ああ、これだ。


現世でも、何度も見た光景。


「止めた人間」が、

「救えなかった理由」を問われる瞬間。


「……違う」


私は、言った。


自分に言い聞かせるみたいに。


「それでも、補強しなかった判断は間違ってない」


魔法使いが、顔を上げる。


「本当に、そう言えますか?」


鋭い。


逃げられない。


「言えない」


正直に答えた。


「正しかった、とは言えない。

 でも、必要だった」


魔法使いは、拳を握った。


「必要だった、で人は死ぬんです」


「知ってる」


即答した。


「それを理由に、何度も人が死んだ」


魔法使いの目が、揺れる。


「……なら、なぜ止めたんです」


「止まらなかった世界を、私は知ってる」


声が低くなる。


「一人を救うために、

 同じ人が何度も前に出て、

 最後に――誰も立てなくなる」


沈黙。


「あなたが、次に補強していたら、

 その次も、やっていた」


魔法使いは、唇を噛んだ。


「……それでも」


「それでも、だ」


私は続ける。


「それでも、救えなかった命は残る。

 この判断は、**きれいじゃない**」


周囲の兵たちは、黙って聞いている。


「でも、ここであなたが壊れたら、

 次に死ぬのは、十人だ。百人だ」


魔法使いの肩が、震えた。


「……私は」


「一人で背負うな」


はっきりと言った。


「この死は、私の判断だ。

 あなたの失敗じゃない」


魔法使いは、目を見開く。


「そんな……」


「代わりに、次は一緒に背負う」


私は、裂け目を見る。


黒は、少しずつ薄れていた。


「次は、補強する。

 でも――」


魔法使いを見る。


「**あなたが倒れる前に、私が止める**」


沈黙のあと、

魔法使いは、深く頭を下げた。


「……分かりました」


声が、かすれている。


その瞬間。


視界が、また歪んだ。


胸が、締め付けられる。

息が、浅くなる。


「……来たか」


限界だ。


「戻るな!」


魔法使いが、叫ぶ。


「まだ、裂け目が――」


「大丈夫」


私は、無理に笑った。


「次は、必ず戻る」


世界が、引き剥がされる。


---


「……っ」


蛍光灯。


オフィス。


私は、机に突っ伏していた。


スマホが鳴る。


《さっきの資料、助かりました》

《あの判断、英断でした》


英断。


画面を伏せる。


異世界で死んだ兵士の顔が、

頭から離れない。


「……英断、ね」


胸の奥が、重い。


それでも。


私は、椅子に座り直した。


壊れないために、

**全部はやらない。**


異世界でも、現世でも。


それが、私の選択だ。


---


(第3話・了)



ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


第3話では、

主人公の「止める」という判断が、

はっきりとした代償を伴う形で描かれました。


避難は成功した。

結界も崩れなかった。

それでも、人は死んだ。


この作品では、

判断=責任の引き受けです。


主人公は正しくありません。

ただ、壊れないための線を引いただけです。


それが誰かを救い、

同時に、誰かを切り捨てる。


その重さを、

これからも避けずに描いていきます。


次話では、

「止める判断」を続けた先に、

世界と人がどう変わっていくのかを描きます。


無理のない距離で、

続きを見守っていただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
「止める判断」に、はっきりと命の代償が出た回。 避難は成功しても、 結界が崩れなくても、 それでも人は死ぬ。 その事実から逃げずに描いたことで、 主人公が万能ではないこと、 そして正しさもまた人を…
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