表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊れた社畜の私に、異世界の魔法使いが「助けて」と言いに来た  作者: 百花繚乱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

第2話 戻る場所が二つあると、人はどちらでも休めない

この物語は、

異世界で強くなる話でも、

現世から逃げる話でもありません。


どちらの世界にも責任があり、

どちらの世界にも限界があります。


行き来できるから楽になる、

――そんな都合のいい話ではありません。


むしろ、

戻る場所が二つあると、人はどちらでも休めない。


それでも、

壊れないための線を引くことだけは、

諦めない物語です。

了解。

**コンセプトど真ん中――「現世と異世界を行き来する」こと自体が物語を動かす第2話**を書きます。

第1話の余韻を壊さず、**行き来の“ルール”と“代償”が自然に立ち上がる回**です。


---


## 第2話


### 戻る場所が二つあると、人はどちらでも休めない


結界の裂け目は、すぐには広がらなかった。


黒く沈んだ一点が、夜空に貼り付いた染みのように、じっと動かない。

まるでこちらの出方を待っているみたいだった。


「……三回」


私の言葉を、魔法使いは反芻するように呟いた。


「三回で足りるようにする、でしたね」


「うん。足りなければ、足りないって認める」


魔法使いは、少しだけ口元を歪めた。

笑いかけようとして、やめた顔だった。


「それが、怖いです」


「知ってる」


怖いのは敵じゃない。

**“止める”という判断**だ。


結界の下では、兵士と術師たちが慌ただしく動いている。

誰もこちらを見ていない。

見ていないからこそ、止められない。


「補強の準備を」


魔法使いが前に出ようとした、その瞬間。


視界が、また歪んだ。


「……っ」


胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。

息が浅くなる。

この感覚も、知っている。


――切り替わる。


そう思った瞬間、世界が裏返った。


---


「……え?」


天井が、白い。


石じゃない。

蛍光灯だ。


私は、オフィスの椅子に座ったままだった。

時計を見る。


**午前二時三十分。**


さっきまで異世界にいた時間と、ほとんど変わっていない。


「……戻された?」


心臓の音が、やけに大きい。


デスクの上には、未送信のメール。

赤字だらけの資料。

さっきまでの“現実”。


異世界が、夢だったみたいに、ここはいつも通りだ。


でも。


右手に、違和感があった。


指先に、微かな熱。

見下ろすと、薄く光る紋様が浮かんでいる。


「……はあ」


夢じゃない。


私は、深く息を吐いた。


「行き来、か……」


救世主どころじゃない。

休憩ですらない。


**限界になると、放り出される。**

それだけの仕組み。


――スマホが震えた。


上司からのメッセージ。


《明日の朝イチ、この件まとめて。よろしく》


よろしく、じゃない。


私は画面を伏せた。


「……全部はやらない、って言ったばっかりなのに」


言葉にしてみても、現実は変わらない。

でも、変え方はある。


私は、新しいファイルを開いた。


“全部まとめる”んじゃない。

**止める線を引く。**


やらない項目に、×を付ける。

今じゃない理由を書く。

代替案だけ残す。


異世界で言ったことと、同じだ。


「……これでいい」


完璧じゃない。

怒られるだろう。


でも、倒れるよりはましだ。


椅子に深く座り直した瞬間、

再び、あの感覚が来た。


世界が、引っ張られる。


---


冷たい空気。


石の床。


異世界だ。


魔法使いが、すぐ目の前にいた。

息を切らしている。


「……戻ってきましたね」


「うん。そっちは?」


「結界は、まだ持っています」


彼は、私の手を見た。


「それ……」


「現世の証拠」


そう答えると、魔法使いは小さく頷いた。


「行き来は……あなたの限界が、引き金ですね」


「みたいだね」


便利じゃない。

逃げ道でもない。


**壊れる前に、切り替えられるだけ。**


それでも。


「……戻ってこられて、少し安心しました」


魔法使いが、ぽつりと言った。


「私が限界でも、あなたが戻るなら……世界は、まだ止まれます」


その言い方に、違和感があった。


「ねえ」


私は聞く。


「もし、私が戻らなかったら?」


魔法使いは、答えなかった。


答えられなかった。


それで、十分だ。


「一つ、決めよう」


私は言った。


「私が戻されたら、その間は**絶対に無理をしない**」


「……ですが」


「三回しかないんでしょ?」


彼は、苦しそうに目を伏せた。


「……はい」


「じゃあ、一回一回を、大事に使う」


結界の裂け目が、わずかに揺れた。


「最初の一回は、**広げない**。

補強もしない。

まず、周囲を避難させる」


魔法使いが、はっと顔を上げる。


「しかし、それでは……」


「被害は出る。少し」


言い切ると、胸が痛んだ。


「でも、全壊は防げる」


沈黙。


やがて、魔法使いはゆっくりと頷いた。


「……分かりました」


分かっていない。

でも、受け入れた。


それでいい。


「行こう」


私は歩き出す。


「救うためじゃない。

壊れないために」


結界の向こうで、夜がざわめいた。


私には、戻る場所が二つある。


だから――

**どちらでも、壊れない選択をする。**


---


(第2話・了)


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第2話では、

「異世界と現世を行き来する」という設定を

便利な能力ではなく、制約として描きました。


主人公は、

どちらの世界でも問題を抱えています。

そして、どちらの世界でも

「全部はやらない」という選択をします。


今回の話で重要なのは、

**最初の判断が“完全な正解ではない”**という点です。


避難を優先する。

補強を後回しにする。

その選択は、被害を減らしますが、

同時に誰かを切り捨てます。


次話では、

その代償が、はっきりと形になります。


感想やブックマーク、とても励みになります。

無理のない距離で、続きを見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
行き来できることが“楽”ではないと示した回。 異世界から現世へ、現世から異世界へ戻る流れが、 逃げでもご褒美でもなく 「限界に達した時の反射動作」として描かれているのが秀逸です。 現世でも同じよう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ