表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
声劇用台本「聖木の森」男女1:1  作者: 木山京


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/6

■3

■3

◆幕間。

◆ルチア(独白)

その人は、私が初めて出会った魔法使いで。

その人は、私に奇跡を与えてくれて。

その人は、だけどどこか悲しい目をしたままで。

その人をいつか癒すことが出来たのならと。

私は、そんな願いを抱いてしまった。


◆夜。小屋の中。目を覚ますルチア。


◆ルチア

んぅ…眠れない。

なんだろ、これ…呼び声を聞いた日から、ずっと…眠りが浅いままだ。

マスターに、相談すべきかな。

迷惑じゃないかな。これ以上、迷惑かけるのやだなぁ…ん?

話し声…マスターの部屋?


◆シルヴェストロ

…お前の方は、その後どうだ?

聞いたぞ。不老不死の呪い、解ける目途が立ったというじゃないか。

…そうか。

あの弟子の置き土産…いや、忘れ形見か。

そうだな…こういう物言いは、私の性分ではないと思うのだが、な。

お前の呪いが、少し羨ましくなった。

いつ朽ちてもよかったはずが…どうして中々、弟子というのは…思い入れというものは…。

せめてあと2年、いや1年でいい。

1年だけ残っていたのなら…もう少しばかり教えてやれたと思ってしまう。

…ああ、もって半年といったところだろう。

その後は、頼む。

あの娘は翆碧街で、癒し手になろうとしている。

私は縁を切ってしまった。

そういう意味でも、お前の方が適任だろう。

…すまんな。導いてやってくれ。

…さて、どうだろうかな。あながち間違いではないかもしれんが。

私にとってあの子は…お前の言う、たったひとつの紅葉とやらなのだろう。

では…ああ、先に行くよ。

…ふぅー…隠れずともいい、ルチア。


◆ルチア

マス、ター…。

…その、あ、あのっ!


◆シルヴェストロ

そう、うろたえるな。

来なさい。

いい酒がある。


◆ルチア

私、お酒は…。


◆シルヴェストロ

味わって損はない。

これも以前教えた、魔法薬のひとつだ。

ローズマリー、レモングラス、ナツメ、エルダーフラワーのはちみつ酒に、触媒をつけ込む。

名を『静月せいげつのしずく』という。

さて、これの効能と用いる触媒は?


◆ルチア

あ、っと…滞留した魔力を循環させるもの、です。

主に魔法使いが、魔力系の中毒症状を抑える時や、その予防に使います。

触媒は、月明かりで清めた若い聖木の根。


◆シルヴェストロ

よくできた。

褒美というわけではないが、飲んでみなさい。


◆ルチア

はい…ん、甘い…。

ん…あはは、お酒って、こんな飲みやすいんですね。


◆シルヴェストロ

そのために薄めてあるのだ。

…お前が並みの癒し手でいいのなら、これで充分な知識は揃った。


◆ルチア

マスター…?


◆シルヴェストロ

ふむ…なんと、言うべきかな。

ルチア、私は…私は、お前に重荷を負わせてしまった。


◆ルチア

…何のお話です?


◆シルヴェストロ

聞いていたのだろう?

先ほどの、私とあれの話は。


◆ルチア

あの人は…。


◆シルヴェストロ

湖畔の魔女。

または死なずの魔女、老いない魔女とも…。

古い友人でな。

あれなら、翆碧街にも顔がきく。


◆ルチア

私…! マスター、私…直すべきところがあるなら、直します…!


◆シルヴェストロ

ルチア…。


◆ルチア

マスターがそうしろというなら、もっと、もっと勉強も家事も、もっとずっと…!


◆シルヴェストロ

ルチア。


◆ルチア

でも…だけど、それでも…!

やっぱり私じゃ、破門ですか…?


◆シルヴェストロ

…いいや。

そうではないよ、ルチア。

…そういう話では、ないのだ。


◆ルチア

でも!


◆シルヴェストロ

お前は、よくやっている。

才能もある。

だがね…もう私が、お前の師でいられないのだ。


◆ルチア

マス、ター…?


◆シルヴェストロ

お前を迎えた頃…折を見て、私はお前を追い出すつもりだった。

それは才能がどう、という話ではないのだ。

…私が、聖木の守り手であるからなのだ。

守り手について、お前には教えたかな。


◆ルチア

…土地に根付く魔法使い。

魔力を循環させ、その土地に正しく四季を巡らす存在…。

そのために、守り手はその土地から魔力を使役できる。


◆シルヴェストロ

そう…土地柄にもよるが。

守り手とは、言わばこの酒の触媒だ。

そして触媒も長くあれば効力が弱まる。

代替わりが必要になる。

いやこの場合は…代償と呼ぶべきか。


◆ルチア

…?


◆シルヴェストロ

ルチア、聖木の守り手とはな。

他の土地と違い、なろうと望んでなるものではない。

聖木に選ばれて成り立つのだ。

守り手でいる間は、不老不死にもっとも近しいほどの力を得る。

だが、やがて次代の守り手が選ばれたのなら…先代は、精霊の列へと加わる。

そういう、ことわりなのだ。

…覚えているだろう。

お前は、もう精霊に招かれてしまった。

あれが選ばれるということだ。


◆ルチア

そんな…それじゃ私…!

私が…マスターの命を、奪って…?


◆シルヴェストロ

そうではない。

いずれ終わりは来る。

これは死とはまた異なるが…命もまた巡るものだ。


◆ルチア

…嫌ですよ。

私は、マスターだから教わりたかったんです。

マスターのようになりたくて…。


◆シルヴェストロ

…なったとも。

お前は、自慢の弟子だ。


◆ルチア

そんなんじゃ、ないですよ…!

自慢なんか…まだまだ、教わりたいこともたくさんあって…。

だから…置いて行かないで…。


◆シルヴェストロ

私は、どこにも行きはしないとも。

お前は、どこにだって行けるとも。

…ルチア、私に残された時間は、あと半年ほどだ。

湖畔の魔女が、お前にとって必要な知識を引き受けてくれた。

半年後…その時が来たら、彼女を訪ねなさい。

それまで、私はお前という弟子を教えよう。

そのあとは、お前という友人の未来を見守ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ