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知らない感情

身支度をすませたあと、

リアンはまだ少し緊張しながらもリディアの手を離そうとはしなかった。

そのまま一緒に食堂へ向かい、初めての朝食を迎えた。


カトラリーの使い方もぎこちなく、

周りの視線に怯えるように肩を縮めるリアン。

けれど、リディアがそばで「大丈夫よ」と声を落とすと、

リアンの手はゆっくりと動き始め、初めての“温かい食事”を少しずつ口に運んだ。


その姿を見て、リディアの父と母は言葉に出さずに穏やかに微笑む。

リアンがこの家で安心して生きられるようにと、

自然と二人が“家族の空気”を作るように努めていた。


その日から――

リディアとリアンの生活は静かに始まった。


日々はゆっくりと積み重なっていき、最初は怯えるように隣に立っていたリアンも少しずつ笑うようになり、リディアの後ろをついて歩く姿が日常になった。


リディアが読み書きを教え、

一緒に庭園を散歩し、

時々お菓子を作る手伝いをしては、

「こんなに甘いものを食べたことがない」と驚くリアンの反応に笑った。


リディアにとっては弟ができたような、

大切な家族が増えた温かな日々。


しかしリアンにとっては――

それ以上の感情が静かに育ち始めていた。


幼いながら、

リディアが笑えば胸がふわりと温かくなり、

リディアが他の誰かと話していると、

説明できないざらついた感情が胸の底に芽生えた。


それをどう表現していいのかも、

名前をつける方法も知らない年齢だったけれど、

リアンは自分が“ただの弟”ではいたくない気持ちを、確かに抱いていた。

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