一夜明けて
カーテン越しの朝の光が、ゆっくり部屋に広がっていた。
リディアはまぶたを持ち上げ、ぼんやりと天井を見つめる。
体を少し動かすと、自分の手が温かいものに包まれていると気づいた。
視線を横へ向ける。
リアンが、静かに眠っていた。
昨日よりも少しだけ柔らかい表情で、規則正しい寝息を立てている。
そしてリディアの手を、しっかりと握ったままだった。
「……まだ離してくれないのね」
声に出さず、そっと微笑む。
リディアは布団の中でわずかに指を動かした。
すると、眠っているはずのリアンが、反応するようにぎゅっと握り返す。
まるで「ここにいてほしい」と言っているようだった。
その瞬間、リアンのまぶたがぴくりと動く。
かすかな動きにリディアはそっと声をかけた。
「……リアン?」
その名前が届いたのか、リアンの目がゆっくりと開いた。
寝起きの視線はまだ焦点が定まらず、天井をぼんやり見つめていたが、
やがて隣にリディアがいることに気づいて、小さく息をのむ。
リディアがにこりと笑う。
「おはよう。よく眠れた?」
リアンはすぐには返事ができない。
だけど、握られた手に少しだけ力がこもり、
その代わりのように、ゆっくり首を縦に動かした。
その仕草はほんの小さなものだったが、
“安心していた”という気持ちが静かに伝わってきた。
リディアは手を離さず、優しく包み込むように握り返す。
「今日はゆっくりでいいのよ。起きたいときに起きて、できることからでいいわ」
リアンの視線はまだ不安げだったが、
昨日のように怯えて縮こまった気配は少なかった。
まぶたがまたゆっくりと下がり始める。
どうやら、まだ眠気が残っているらしい。
リディアはくすっと小さく笑い、声を落とした。
「もう少し寝てもいいわ。私、ここにいるから」
リアンはその言葉に反応するように、
またそっとリディアの手を握り直す。
そのまま静かな呼吸を刻みながら、再び眠りへ沈んでいった。
リディアは、リアンが再び眠りに落ちたことを確認すると、寝顔を見つめ、そっと息をつく。
(昨日は、本当にいろんなことが起きすぎたわよね…)
初めて会ったあの場所。
怯えきったリアンの目。
手を繋いで屋敷へ戻ったこと。
両親との対面。
そして、このベッドで眠ったこと。
全部、リアンにとっては大きな出来事ばかりだ。
(少しずつでいい。急がなくていいから、リアンのペースで慣れていけばいいの)
「大丈夫。ずっとそばにいるわ」
これから始まるのは、リアンにとって“初めての日常”。
リディアは一つ一つ、丁寧に支えていくつもりだった。




