激動の1日(リアン視点)
【リアン】
夜の静けさの中で、リアンはふと目を開けた。
薄暗い部屋には、柔らかなランプの残光がほんのり漂っている。
胸の奥にまだ少しだけ残る不安が、眠りを浅くしたらしい。
自分の手に温かさを感じ、リアンはそっと視線を動かした。
リディアが隣で静かに眠っていた。
穏やかな寝息、ゆるんだ表情。
昼間の気丈な声とは違い、寝顔は驚くほど柔らかい。
その手が、リアンの手をしっかり握っている。
逃がさないように、ではなく。
安心を渡すために、そっと包むような握り方。
リアンはそれを見つめて、胸がじんわりと熱くなる。
今日のことが、次々に頭の中で浮かんできた。
奴隷市場でのあの空気。
誰からも見向きもされなかった自分に、声をかけてくれたリディア。
馬車の揺れ。
初めて見る大きな屋敷。
怖いと思ったのに、父も母も怒らなくて。
優しくされたことが、どうしていいかわからないくらい温かかった。
あまりにたくさんの変化が一度に起きて、胸の奥がまだ落ち着かない。
本当にこれが現実なのか、自分に起きていいことなのか、よくわからなかった。
リディアの寝顔を見つめていると、静かに胸が締めつけられる。
「……どうして、こんな自分に……」
声にはならない呟きが、胸の中で震えた。
視線を下ろすと、リディアの手が自分の手を包んでいる。
その温かさだけは、確かに現実だ。
リアンはゆっくりと、その手を握り返した。
最初より少しだけ強く。
まるで自分の気持ちを確かめるように。
「信じても……いいのかな」
心の中に浮かんだ小さな願いは、不安と一緒に震えている。
それでも、リディアの手のぬくもりを感じると、その震えがほんの少し落ち着いた。
彼女は自分を置いていかないように、手をずっと握ってくれている。
その事実だけが、胸の中に静かに広がった。
リアンはそっと目を閉じた。
手の温かさを確かめるように、もう一度ぎゅっと握る。
今度は、離したくないと思って。
そして、再び静かな眠りへ落ちていった。




