迫られる決断(レオンハルト視点)
【レオンハルト】
リディアが運ばれた王宮の医務室は、いつもより静かだった。
白い寝台の上で、彼女は胸を上下させながら眠っている。その周囲には、まだかすかに――白銀の光の粒が漂っていた。
暴走を鎮めた“加護”の名残。
触れれば溶けてしまいそうで、目を奪う澄んだ光。
そのすぐ横では、リアンがリディアの手を握って座っていた。声も発さず、涙もこぼさない。
ただ、背中を丸め、必死に呼吸を整えている。
レオンハルトは、少し離れた位置からその光景を見つめる。
(……あれほどの暴走が、嘘のように静かだ)
レオンハルトはゆっくりと息をついた。
リアンの力は異常だった。
暴走した瞬間、自分の結界ですら押し返された。
塔全体が軋み、魔導士たちの術式が焼け落ちた。
あの力を扱いきれる者が、この王国に何人いるか。
自分ですら、ほんのわずかの間しか持ちこたえられなかった。
(本当に……厄介な力だ)
そして同時に、
その暴走を止めたのが、リディアただ一人だったという事実。
レオンハルトは彼女の寝顔に目を落とす。
(あの白銀の光……あれは加護というより、もはや神話の物語の一部のようだった)
暴走する闇を優しく包み、静かに消していく光。
決して強引ではなく、ただ寄り添うように力を溶かしていく。
それは誰よりも、“リディアらしい”力だった。
(怖いはずなのに…誰よりも勇敢で、優しい……惹かれるのも、当然だ)
胸に熱が広がる。
恋なのか、憧れなのか、それとももっと別の感情か。
自分でも整理がつかない。
だが、王太子としての思考も同時に働いていた。
――暴走する力。
――それを鎮められる唯一の少女。
(放っておけるはずがない)
国としても、王族としても。
そして、自分自身としても。
レオンハルトは目線をリアンに向ける。
リディアの手を握る少年の背中は小さく、
しかし鉄のように固く拒絶の色を滲ませていた。
(……このままでは、いつか衝突する)
力の危うさ。
リディアへの想い。
危険と執着が同じ場所に同居している。
レオンハルトは固く心に刻む。
(国を守るためにも、リディアを守るためにも……
彼女を王家の傍に置く必要がある)
それは“監視”であり、
“保護”であり、
そしてレオンハルト自身にとっては――
“手放したくない”という本音でもあった。
彼は静かに結論を下す。
(……やはり、リアンは厄介だ。
強さも、想いも、全部が危険すぎる)
白銀の光の中で眠る少女を見つめながら、
レオンハルトはひとつの決意を深く胸に沈めた。




