崩れ落ちる
暴走していたリアンの黒い魔力が、
リディアの放つ白銀色の光に吸い込まれるようにして静まり──
塔の空気が、嘘のように静寂へと戻った。
あたりには、光が散った余韻だけが漂っていた。
リディアの手からこぼれる銀の輝きは、
まだ温かく、柔らかく、花びらのようにふわりと舞っている。
その美しさに誰もが息を呑んだ、その次の瞬間だった。
リディアの指先が小さく震えた。
ほんのかすかな、揺れ。
だがその震えはすぐに全身へと広がり、
彼女の肩がふっと落ちる。
「あ……」
リディアの口から漏れた小さな吐息。
次に、白銀色の光がぱらぱらと零れ落ちるように散り、足元へ舞い降り——
彼女の膝が、力なく崩れた。
「リディア!?」
リアンの叫びは悲鳴のようで、
レオンハルトの動きはほとんど反射だった。
ほとんど同時に飛び込み、
だが抱きとめたのはレオンハルトだった。
その腕の中に収まったリディアの身体は、
驚くほど軽かった。
(魔力の放出……あの加護を初めて使った負担……
身体が、耐えきれなかったんだ)
彼女の呼吸はかすかに上下しているが、
その顔は雪のように白く、
どこか儚く、消えてしまいそうで。
レオンハルトは胸の奥を強く締めつけられた。
腕に抱く彼女の髪が揺れ、
そこからほんの少しだけ残った銀の光が
淡い残香のように立ちのぼっている。
それはまるで——
彼女が最後に放った奇跡の余韻が、
まだこの世界にしがみついているかのようだった。
レオンハルトは唇をかすかに噛み、息を整えると
強い声で命じた。
「……医務室へ運ぶ! 道を開けろ!」
声が塔に反響し、魔導士たちが慌てて通路を開ける。
(……失うわけにはいかない。
彼女を……こんな形で……絶対に)
白銀の残光が、
リディアの髪の間を名残惜しそうに揺れていた




