温もり
リディアはリアンの手を引いて自室へ戻った。
柔らかな灯りが揺れる広い部屋。
リアンは部屋の大きさにも落ち着いた空気にも、まだ慣れない様子で周囲をおそるおそる見渡していた。
「ここが私の部屋よ。今日は…ここで休みましょうね」
リディアがそう話しかけると、リアンは一瞬驚いたように目を丸くした。
“同じ部屋で眠る”という経験がほとんどないのだろう。
少し身を縮めながらも、拒む気配はない。
リディアはベッドの縁に腰を下ろし、手招きをした。
「おいで。無理に話さなくていいわ」
リアンは遠慮がちに近づき、リディアの横に座った。
その足はまだ緊張で強張っている。
リディアはゆっくり布団をめくり、リアンを招き入れた。
「寒くないようにしないとね」
リアンが恐る恐る布団に入ると、ふわりとした温かさに包まれた。
彼の肩がわずかに揺れ、安心のため息がほんの少し漏れる。
リディアも隣に横になり、布団を二人の肩までかける。
距離は近いけれど、押しつけない。
リアンが逃げたくならないよう、そっと触れられる距離にした。
リアンの体はまだ小さく震えていた。
その震えが伝わってきて、リディアは胸がきゅっとなる。
「怖くないわ。ここは安全よ」
そう言いながら、リディアはリアンの手にそっと触れた。
驚かせないように、最初は指先だけ。
リアンはびくっと反応したが、すぐに力を抜き、ゆっくりとその手を握り返した。
指が絡まるわけでもなく、ただ“そばにいる”と伝えるような静かな握り方だった。
リディアは声のトーンを落とし、子どもを寝かしつけるように優しく話しかける。
「今日は、とても頑張ったわね。もう休んでいいのよ」
リアンは言葉こそ返せないが、握った手の力がほんの少し強くなった。
その仕草があまりにも素直で、リディアは胸が温かくなる。
しばらくすると、リアンの呼吸がゆっくりと深くなった。
落ち着こうとしているのが伝わってくる。
目は閉じていないけれど、リディアの方に向き、安心を探すように視線を寄せていた。
リディアは微笑み、小さく囁いた。
「眠っていいのよ。私がここにいるから」
その声に反応するように、リアンはそっと目を閉じる。
最初は不安げに眉が寄っていたが、布団の温かさとリディアの気配で徐々にほどけていく。
寝息はまだ浅いけれど、確かに安心の色が混じっていた。
リディアはリアンの髪に触れるのを迷ったが、
ほんの一瞬、そっと優しく撫でた。
リアンは意識が半分眠りに落ちかけながらも、安心するようにリディアの手をぎゅっと握り直した。
(こんなに怯えて…どれだけ辛い思いをしてきたのか。でも、もう大丈夫。ここでは絶対に怖い思いなんてさせない)
リディアはそう心の中で誓い、リアンの寝息を聞きながら、彼の隣でそっと目を閉じた。
二人を包む夜は静かで、どこまでも優しかった。




