消えない不安
ウルフの残骸が霧のように消えていく中——
騒ぎを聞きつけた教師たちが、息を切らして中庭へ飛び込んできた。
「な、なんだ……この魔力の乱れは……!」
「魔獣!?結界内の学園に魔獣が出るはずが……!」
青ざめた教師たちは、消えかけの残滓に震える指を向ける。
「こ、これは……間違いなく魔獣の魔力反応だ……」
「どういうことだ……侵入など不可能なはず……!」
不安と動揺が、中庭全体に広がっていく。
その空気を断ち切ったのは——
レオンハルトの落ち着いた声だった。
「先生方、落ち着いてください」
ゆっくり前へ進み、場を一瞬で掌握する。
「今回の件は、僕が責任をもって王城へ報告します。
結界と警備の再点検も、王家で急ぎ対応します」
その言葉に、教師たちはざわめきを止めた。
「で、殿下……しかし——」
「先生方はまず、生徒を安全に家や寮へ戻してください。学園の混乱をこれ以上広げないためにも」
毅然とした声で告げると、教師たちははっと背筋を伸ばした。
「……承知しました、殿下!」
指示を受け、中庭は急速に整理されていく。
やがて——
「本日の授業はすべて中止!
生徒は速やかに家または寮へ戻るように!」
緊急アナウンスが響き渡り、学園は異例の“休講日”となった。
ざわつきながら帰っていく生徒たちは誰もが同じことを思っていた。
——今日、何かが確かに変わり始めた。
そう確信せずにはいられないほど、
中庭で起きた出来事は異常で、恐ろしくて、決定的だった。
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帰りの馬車。
リアンは、いつもなら私に寄り添っておしゃべりしてくるのに――今日はずっと窓の外を見ていた。
「……リアン?大丈夫?」
小さく「大丈夫です」と返してきたけれど、声は弱い。
顔を見せないところが余計に不安を呼んだ。
(魔獣のこと、力のこと……きっと、怖かったのよね)
重たい空気のまま馬車は屋敷へ着き、
リアンは軽く会釈して自室へ籠ってしまった。




