初めて知る感情(ソフィア視点)
【ソフィア】
はっきりと言われた。
「触れないでください」
迷いのない、拒絶そのものの声で。
リアンさんは完全に目をそらし、
氷のように冷たい表情を向けてきた。
聖女になって以来、
どんな人からも優しく扱われ慕われてきた私にとって——
あの言葉は、
胸の針を刺されたようにチクチクと痛かった。
(……私、なにか……してしまったの?)
ただ手を取りたかった。
傷がちゃんと治ったか確かめたかった。
心配しただけなのに。
それなのに。
リアンさんは、
次の瞬間にはリディア様の手を優しく包んでいた。
私に触れられるのは嫌なのに、
リディア様には……あんなにも甘く。
(ずるい……です……そんなの……)
胸がぎゅうっと締めつけられる。
初めて知る感情だった。
嫉妬。
みじめさ。
悲しみ。
そして……ほんの少しの憧れ。
(リディア様は……どうして、あんなに優しく受け入れられているんだろう)
リアンさんの力が暴れた時、
私の祝福でも抑え込めなかった。
でも——
リディア様が抱きしめた瞬間、力は静かになった。
祝福でも癒せない荒れ狂う魔力を、
リディア様だけが落ち着かせられる。
(私のほうが、…私が…聖女なのに……)
惨めだ。
何よりこんなことを思う自分が、嫌でたまらない。
私は、人を妬むような女じゃなかったはずなのに。
「……どうして……泣きそうなんでしょう、私……」
自分でも説明できない感情が広がり、
思わず胸元をぎゅっと握りしめた。
祈りの言葉も出てこない。
ただ、静かに震えながら——
私は初めて、自分の心が誰かに傾きかけていると自覚した。
そして、その相手に拒絶されているということも。




