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不穏な気配


中庭の奥。

風が流れるたび、花弁が舞う。


レオンハルトはリディアに言葉を続けていた。


「君は……無自覚なんだろうね」


「なにが、ですか?」


「僕が微笑むと君は戸惑う。

媚びも怖れもせず、ただ“困る”」


リディアはひどく焦った顔で笑った。


「そ、それは……その……そういう顔なんです!困っつ見えてるだけというか…」


レオンハルトは吹き出しそうになる。


(本当に……この子は強烈だ)


そんな静かなやり取りの裏で――

レオンハルトだけが気づいていた。


空気が変わったことを。


風が乱れ、魔力の粒子が震えた。


「リディア嬢。少し下がって」


「え? 殿下?」


その瞬間。


――ガサッ!


茂みの奥から、低い唸り。


「……嘘でしょう。学園は王都の結界内……のはず……!」


姿を現したのは、

灰色の毛を逆立てたウルフ型の魔獣。


一体ではない。

二体、三体、四体……

影が分裂するように増えていく。


リディアは後ずさった。


「な、なんで……こんな場所に……!」


レオンハルトは剣を抜きながら言った。


「わからない。だが……これは厄災と何か関係があるとしか思えない」


「厄災……?」


レオンハルトはリディアの前に立ち、

ウルフへ斬りかかる。


「下がっていろ!」


鋭い斬撃が走る。

彼は魔獣を次々と捌いていった。


リディアも魔法で援護する。


「【風刃】……っ!」


風の刃がウルフを切り裂く。


だが――

魔獣の数が減らない。

倒した途端、煙の中から増えていく。


「これは……召喚型……!?」


レオンハルトが眉をひそめる。


「リディア嬢、後退して!」


「はいっ!」


二人で背中合わせに構えた時。


――声が響く。


「姉さん……!」


「リアン!?」


息を切らしながら、リアンが駆けつける。


だが、その瞬間だった。


隙を見た一匹が、

リディアの背後に現れ、

飛びかかってきた。


「危ない!!」


レオンハルトは間に合わない。


ウルフの牙がリディアに触れようとした時――


リアンが咄嗟に姉の前に滑り込み、

その身で受け止めた。


ガッ!!


ウルフの牙がリアンの腕に食い込む。


「リアンっ!!!」


リディアの悲鳴。


痛みからリアンの赤い瞳がスッと細くなる。


その瞬間、

彼の胸の奥で眠っていた“何か”が覚醒した。


――ドクン。


ウルフの身体が、まるで見えない力に押し潰されるように弾け飛ぶ。


次の瞬間、

地面が震え、風が逆巻き、

周囲の魔力が吸い寄せられる。


レオンハルトは目を見開く。


(……これは……何だ……!?

かつて見たことのない魔力量と流れ……!!)


リディアは震える声でリアンに駆け寄る。


「リアン……腕が……!血が……っ!」


「平気、です……軽い傷……それより……姉さんが無事で……」


リアンは苦痛よりも、

姉が腕を抱いて泣きそうな顔をしていることに

圧倒されていた。


(……姉さんが……僕のために……)


嬉しさが抑えきれず、

痛むはずの身体よりも先に、

唇がゆっくりと笑みの形を作る。


「姉さん……泣かないでください……

僕が……守れたのなら……それで……」


リディアは震える手で彼を抱きしめた。


「守るなんて……そんなの……私あなたに守られてばかり……!

私のために無茶ばかりしないで…………!」


リアンの腕がそっとリディアの背に回りそうになり――

だが、そこで別の声が割って入る。


「怪我を……私に見せてください!」


騒ぎを聞きつけたソフィアが駆け寄り、両手をリアンの腕へ。


淡いピンク色の光がふわりと広がり、

裂けた皮膚がみるみる塞がっていく。


「祝福の力……」


レオンハルトが低く呟く。


ソフィアは少し震えた声で言った。


「この……おびただしい魔力……

リアンさん……あなた、いったい……」


リアンは返事をしない。


ただ――

腕を抱いてくれた姉の体温だけを感じていた。


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