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芽生え(レオンハルト視点)
【レオンハルト】
あの少女は――
まったく、僕の予想を裏切ってばかりだ。
リディアは、他の令嬢たちのように媚びない。
恐れず、必要以上に持ち上げもしない。
そして今日、彼女は僕の胸の奥を、
誰にも触れられたことのない場所を、
まっすぐ指し示した。
「……殿下は、誰も心から信じていませんわ」
あの言葉は、鋭い剣でありながら、温かい手でもあった。
ずっと子どもの頃から、
僕に向けられる視線のほとんどは打算だった。
利用しようとする者ばかりで、
僕の心の深さまで覗き込む者などいなかった。
だから――今日、初めて思った。
(……彼女に見透かされるのは、悪くない)
気づいたら、息が軽くなっている。
胸の奥に灯がともる感覚。
恋と呼ぶにはまだ早いかもしれない。
けれど――
リディアを見る瞳に熱が籠るのを感じた。




