揺れる波(ソフィア視点)
【ソフィア】
学園の聖女専用の祈りの部屋。
夜、私はその扉を静かに閉めた。
白い壁と魔導灯。
祈りのための澄んだ空気。
けれど今日は、心が落ち着かなかった。
胸の奥がきゅうっと締めつけられるような、
不思議な乱れ。
(今日……あの人を見た瞬間)
赤い瞳と漆黒の髪。
リディアの弟。
リアン。
彼を見た瞬間、
祝福の力が強く震えた。
普通では絶対に起こらない反応。
感じた“色”は深く、激しく、
まるで感情がそのまま形になったような強い赤。
(あれは……普通じゃない。何……?)
胸の奥がざわりと揺れる。
そして次に浮かぶのは、
リディアがリアンの袖を掴んだ光景。
リアンが静かに彼女を守っていた姿。
隣に立つ二人から流れる気配は、
あまりにも近く、深く結びついて見えた。
あれほど強い絆。
あれほど深い感情。
(……二人の間に、誰かが入る余地があるのかな)
そう考えた途端、
胸が少し苦しくなった。
嫉妬、ではない。
けれどそれに似た、
静かな痛み。
どうしてリアンの瞳が気になったのか、
自分でも分からない。
ただ一つだけ確かだった。
――あの人を“見過ごしてはいけない”。
祝福の波が、
そう告げている気がした。
私はそっと祈りの言葉を再開した。
揺れる魔導灯の下で、
静かに、夜が更けていった。




