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隠しきれない(リアン視点)

【リアン】


リディアの部屋から戻って扉が閉まった瞬間、

僕はその場にしばらく立ち尽くしていた。


胸の奥が落ち着かない。

身体の温度が妙に高い。


姉さんと話していた時、

声が柔らかくなってしまったのを自覚している。


あれは……

“弟”の声じゃなかった。


(……抑えきれなかった)


ベッドに腰を下ろした瞬間、今日の出来事が一気に蘇る。


姉さんの微笑み。

袖を掴んでくれた小さな瞬間。

殿下に視線を向けられていたときの揺れる瞳。


そしてなにより――


他の生徒が姉さんに近づこうとした瞬間の胸のざわめき。


あれは嫉妬だと、今なら分かる。


(僕以外が姉さんを見つめるのが……どうして、あんなに嫌なんだ)


姉さんが命の恩人だから。それだけの理由では片付けられない感情。


胸の奥が、ずっと熱い。

息が浅くなるほどに。


姉さんと距離が近い時、

呼吸がふっと甘くなることにも気づいてしまった。


もっと触れたい。

もっと声を聞きたい。

もっと近くにいたい。


ただの“家族の気持ち”では説明できない感情。


無意識に手が胸へ伸びる。


——そこで、異変があった。


今日ソフィアという“聖女”を見た瞬間。

胸の奥で、ずっと眠っていたはずの何かが

一瞬、鋭く脈打った。


まるで外からの力に反応するように、

心臓とは違うリズムで熱が走った。


それは力とも本能とも言えない、

説明できない衝動。


そして今もなお、

その“微かな脈”の名残が胸の奥で揺れている。


(……ソフィアを見た時だけ、反応した)


意味は分からない。

けれど、あの時確かに感じた。


自分の中に“何かがある”。


そして同時に思う。


(姉さんの瞳に僕以外が映る時、僕以外を選ぶ時、僕の中のこれが暴れる)


そんな予感さえした。


自分が何者かは分からない。

けれどこれだけは分かる。


――この感情は、もう抑えられない。


姉さんが望むのなら手を伸ばすけれど、

奪いたいと思ってしまうほどの気持ちもある。


その矛盾が胸の奥でぐちゃぐちゃに絡み合っていた。


「……姉さんは、僕のものでもないのに」


口にした瞬間、

胸の奥がギュッと痛む。


その痛みさえ、

姉さんへの気持ちを強く教えてくるようだった。


(僕はいったい……何なんだ)


強く湧き上がる力と、感情と、熱。


全部が初めてで、

全部が怖くて、

全部が嬉しかった。


明日、姉さんがまた誰かに微笑む瞬間を想像すると、

胸が苦しくなるほどざわつく。


(ずっと……隣にいたい)


静かにそう願いながら、

僕は目を閉じた。


眠れそうになかった。


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