席取り合戦(リディア視点)
【リディア】
新しい教室に入った瞬間。
私はまず、広さと天井の高さに「おお……!」と感動してしまった。
(さすが名門学園……!天井が高い……!!)
周りでは既に生徒たちが自己紹介をしたり、席を探したりしていて、
わわっとした熱気に包まれている。
その中で、うちの弟リアンはというと……
背筋を伸ばして静かに立ち、
周囲を観察するようにゆっくり視線を巡らしていた。
(ああ……今日もイケメン……)
姉ながらため息が出てしまう。
本人は気づいていないけれど、
その佇まいはすでに絵画のように整っていた。
案の定、令嬢たちがひそひそ囁き合っている。
「リアン様、やっぱり美しいわ……」
「黒髪と赤い瞳が映える……」
「なんか雰囲気が他の男子と違う……」
……なんといいますか、姉の私より人気じゃないかしら。
いや、もちろん嬉しいのだけれど。
(うん、嬉しいのよ?嬉しいはずなのよ?
なのに、ちょっと胸がむずむずするのは何なの?)
そんなことを考えていたら、
「リディア様、席はこちらですわ!」
「いえ、この列の方が過ごしやすいかと!」
「リアン様にも近くて……!」
令嬢達が次々と声をかけてくる。
ああ……なるほど。
目的は私ではなく、リアンね。
私は苦笑しながら手を控えめに上げた。
「あの……無理に近づかなくても大丈夫ですわ?
ゆっくり探しますので……」
その言葉に、令嬢たちが少し息を飲む。
「……意外と柔らかい方……?」
「もう少し近寄りがたいと思っていたのに……」
好感がほんの少し芽を出すのが、空気で分かった。
(違うのよ……優しくしたいわけじゃなくて……
静かに座りたいだけなの……!)
心の中で叫びつつ、私はぎこちなく笑った。




