静かに散る火花
式典の荘厳な音楽が静かに消え、
大広間の前方で教師が高らかに宣言した。
「続きまして――
新入生代表、レオンハルト殿下によるご挨拶です」
ざわっ。
一瞬で空気が華やぐ。
誰もが姿を見ようと背筋を伸ばした。
金の髪が光を受けて揺れ、
青灰色の瞳を落ち着いて前へ向けながら、
レオンハルトが壇上に立つ。
その佇まいだけで場の空気が変わる。
「本年度の新入生を代表し、挨拶を述べさせていただきます」
声は柔らかく澄んでいるのに、
何故か耳に残る不思議な響きがあった。
周囲の令嬢たちがさっそく頬を染める。
「さすが殿下……」
「綺麗すぎる……」
だが、レオンハルトはそんな視線を無視し、
淡く微笑みながら言葉を続ける。
「この学園で学ぶのは、ただ知識だけではありません。
互いの個性を尊重し、新たな知恵を生み出す力。
皆さまとの出会いが、生涯の糧となることを願っています」
真面目でありながら、柔らかい。
王太子らしい完璧なスピーチ。
――そこで、不意に。
レオンハルトの視線が、ふっと客席へ流れた。
そして一瞬。
ほんの一秒だけ。
リディアを見て微笑んだ。
優しく、興味深げで、
彼しか持ち得ないあの柔らかい笑顔で。
しかし――
リディアはその瞬間、
持っていた式次第を落としそうになり、
「わ、この紙……堅いのね……!」
などと紙質に感動しており、気づかない。
周囲の令嬢たちは大騒ぎだった。
「いま殿下、こっち見た!?」
「え、でも今……誰を見て……?」
「微笑んだ……!!」
リディアはぽかんとする。
(え?何で急に周りが騒いでるの?紙質?違う?)
そんな中――
リアンだけは、その瞬間を逃さなかった。
赤い瞳に、静かな苛立ちが走る。
普段と変わらぬ無表情の裏で、
冷えた怒りが音もなく広がっていく。
ギュッ。
無意識に握った手の指が白くなった。
リディアはその様子に気づかず、
「リアン?大丈夫?紙持つの疲れちゃった?」
と、的外れな心配をしていた。
レオンハルトはスピーチを終えると
最後に軽く礼をして退場する。
その横顔には、
先ほどの優しい微笑みとは違う
“何かを確かめたような光”が宿っていた。




