謎のモヤモヤ
大広間の中央でざわつく新入生たちを眺めながら、
リディアとリアンは指定された列の横で立っていた。
その時だった。
大広間の扉が開き、教師が声を響かせる。
「これより、新入生歓迎の式典を始めます。各自、指定の席へ」
空気が一気に引き締まり、生徒たちがざわざわと移動し始める。
リディアも「あら、席はどこかしら」と周囲を見回したが――
その横では、リアンがごく自然に周囲の生徒との距離を測り、
リディアをぶつからないようにエスコートしていた。
「姉さん、こちらです。人が流れていますから」
「まあ、ありがとうリアン。助かるわ」
その光景を見た近くの女子たちが小さく悲鳴を上げる。
「今の見た!?」
「手……さりげなく添えてたよ!?」
「素敵……」
リディアはその視線に気づかず、
ただ微笑みながらリアンと席へ向かっていった。
しかし――
周りのざわつきは、確実に二人に向けられていた。
⸻
席に着くために列を進むとき、さらに声が耳に入る。
「リアン様……めちゃくちゃ綺麗じゃない?」
「私もあの瞳に微笑まれたい……」
「背も高いし、色気が……」
リディアは一瞬だけ「あら?」と振り返った。
(……リアン、いつの間にこんなに目立つようになったの?)
周囲から投げられる好意と興味の視線に、
なぜだか胸の奥がむずむずした。
だけど同時に――少しだけ誇らしい。
(ふふ……そうよね。だって、私が育てたんですもの!
礼儀も綺麗な立ち方も、毎日コツコツ教えてきたもの!)
自分のことのように胸を張った。
しかし次の瞬間、それを打ち消すような声が飛ぶ。
「ねえ、声かけてみようよ」
「第一王子と違って話しかけても怒られなさそう!」
女子数名が勢いよくリアンに歩み寄ろうとして――
リディアは反射的にリアンの袖をつまんでいた。
「ちょ、ちょっとリアン、こっち来て!」
「姉さん?」
引っ張られたリアンは、
当たり前のようにリディアのそばに寄る。
女子たちはその距離の近さに目を丸くした。
「え……仲良しすぎない!?」
「入る隙ないわ……」
彼女たちはそのまま引き返していった。
リディアは慌てて手を離し、笑顔で誤魔化す。
「ごめんなさい、ちょっと……転びそうだっただけよ。ね、リアン?」
「はい。僕も姉さんを支えただけです」
二人の息の合った言い訳に、周囲はざわつきながら散っていく。
リディアは胸の中のむずむずに気づかないふりをした。
(なんで私……あんなに焦ったのかしら?
リアンが人気なのは、嬉しいはずなのに……)
リアンは静かにリディアの横顔を見つめる。
「姉さん。さっき……手、温かかったです」
「えっ、そ、そうだったかしら?」
「また握ってもいいですか」
「ど、どうしたの……?」
リアンはほんの少し嬉しそうに微笑んだ。
「理由なんてありません。ただ……姉さんが好きですから」
リディアの胸がまたざわついた。
式典の音楽が荘厳に響く中――
リディアはその感情の正体に、まだ気づけなかった。




