ルビーの瞳と揺れる心(ソフィア視点)
【ソフィア】
大広間で初めて出会った瞬間、ソフィアは思わず息を呑んだ。
水色の髪が肩で揺れ、ピンクの瞳がそっと細められる。
あの少年――
リディアの隣で静かに立っていた存在。
リアン。
彼の姿は、他の新入生とは明らかに違って見えた。
同年代より大人びた落ち着き払った雰囲気。
黒髪は夜の闇を吸ったように深く、赤い瞳は静かに燃えるような色をしていた。
だが何より気になったのは、
その瞳に宿る、説明しがたい“波”だった。
祝福を受けた聖女だけが感じられる、
人の内側の揺れのようなもの。
彼の心からは、それがはっきりと見えた。
(どうして……私、この人の心が、こんなにはっきり見えてしまうの?)
他の者の心は淡く彩るだけなのに、
リアンだけははっきりとした色で流れ続けている。
静かで深く、濃く、底知れない赤。
そしてその色が、唯一強く向かっていたのは――
リディアただ一人。
ソフィアはその光景に思わず胸を押さえた。
(この人……姉弟なのに、こんな……)
直視できないほどの熱情。
けれど、本人はそれを必死に隠している。
危うい。
美しくて、危険で、惹かれてしまう。
レオンハルトに対して感じる好意とは違う、
まるで聖女としての本能が警鐘と興味を同時に鳴らすような、不思議な感覚。
ソフィアは自分でも理由が分からないまま、そっと彼を見つめていた。




