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学園準備での小事件と噂

14歳の春。

学園入学に向けて準備が進む中、私は制服の採寸のため、仕立て屋に呼ばれていた。


「リディア様、もう少し腕を上げて……」


「こ、こう?」


少し恥ずかしくて袖をぎゅっと握っていたら、

リアンが隣からすっと布を整えた。


「姉さん、ここの生地が肌を擦っています。

もっと柔らかい素材に変えられますか?」


「リアン様……困ります……っ!」

仕立て屋が焦っている。


私は笑顔で言った。


「リアンは気遣いの天才ね。すごく助かるわ!」


「当然です。姉さんの制服ですから」


ただの兄弟仲良しに見えるかもしれない。


だが――


その後ろで並んでいた他領の令嬢たちは、青い顔をしてひそひそ声。


「ねえ……アーヴェント公爵令嬢の弟……」

「視線だけで釘を刺してくる……!」

「何かしたら消されそう……いや誇張じゃなくて……!」


リアンが姉に手を添えるだけで、

周囲はなぜか距離を取るようになっていた。


私は全く気づかない。


(みんな、恥ずかしがり屋さんが多いのね)


違う。


そんなふうに周りを見ていると、廊下の奥で侍女たちが楽しげに話す声が耳に入った。


「聞いた?今年の新入生に“聖女候補”がいるらしいわよ」

「ピンクの瞳で、祝福に選ばれたって……とても素直で可愛い子なんですって」


私は、つい足を止めてしまった。


――ピンクの瞳。

――祝福。

――素直で可愛い。


もう確信するしかなかった。


ソフィア。

原作の主人公で、断罪イベントの中心人物。


背中に冷たいものがつっと走る。


(きた……!

本当に来ちゃった……!

この世界の“正規ルート”が、いよいよ動き始めた!)


制服の布地を広げていた手が止まる。

指先が微妙に震えているのが自分でも分かった。


「姉さん……顔色が悪いです」


隣にいたリアンが、そっと覗き込んだ。


「だ、大丈夫よ!ほら、元気いっぱい!!」


完全に空回りの笑顔だった。


(だって……聖女が来たら、

王太子と仲良くなって、

そのあと断罪イベント発動で、

私が“悪役令嬢”として公開フルボッココース!)


いやいやいや、落ち着け私。


私は深く息を吸って、むりやり平常心を装った。


(ここ数年、悪事ゼロ。

むしろ善行ポイントめっちゃ貯めてるし!

お茶会はニコニコ、使用人にも優しい、

リアンにも過保護なくらい優しい……!

絶対、大丈夫……なはず……!)


その時だった。


リアンが私の手をそっと包んだ。


「姉さん。

不安になる理由なんてありません。

ずっと僕がそばにいます」


その優しい声は、胸に染み込むようだった。

だけど、赤い瞳の奥にほんの一瞬だけ

“別の色”が灯った気がする。


(……きっと私の気のせいよね)


私はへにゃりと笑った。


「ありがとう、リアン。

あなたがいると本当に心強いわ」


リアンは微笑んだ。

だけど表情の端に、

“守ると決めたものを絶対に逃さない者の影”が見えた気がした。


胸の奥ではまだ小さな鈴が、

未来の不吉を知らせるようにかすかに鳴り続けていた。


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