王城からの帰り道
応接室を出たあと、
私は胸の内の緊張をそっと吐き出した。
(ふぅ……なんとか乗り切った……!
殿下との距離もちゃんと保てたし、
きっと印象に残らなかったはず……!)
そう思いながら馬車に戻ると、
リアンがすぐ隣に腰掛けてきた。
いつも通りの落ち着いた表情。
……なのに、どこか雰囲気が違う気がする。
「リディア姉さん」
「なぁに?」
「……殿下のことは、どう思いましたか」
なんだろう、質問する声が少しだけ低い。
「どうって……素敵な方だったわよ?」
「…………素敵、ですか」
「ええ。とても落ち着いていたし、雰囲気も穏やかだったし」
リアンは小さく息を吐いた。
それは安堵ではなく――何かを押し殺すような音だった。
(あれ……リアン、疲れてる?)
私は心配になって手を握る。
「リアンも緊張したのね。ありがとう、一緒にいてくれて」
「……姉さんのためなら当然です」
「ふふ。頼りにしてるわ」
そう言うと、リアンの指がぴくっと動いた。
ほんの一瞬、けれど確かに力がこもる。
「姉さん。殿下が、今日のように……その、距離を詰めてきたら」
「?」
「……僕に言ってください。何があっても、姉さんは僕が守ります」
声は丁寧なのに、
その奥にある感情は静かに熱かった。
でもリディアは、そこに込められた“別の意味”に気づかない。
(リアンって本当に家族思いで優しいわね……!)
私は満面の笑みで頷いた。
「ありがと。じゃあお願いね、リアン」
リアンは一瞬だけ目を閉じ、
ゆっくりと私の手を握り返した。
「はい。……ずっと、そばにいます」




