興味(レオンハルト視点)
【レオンハルト】
王城の応接室。
扉が開き、アーヴェント公爵家の令嬢、リディア・フォン・アーヴェントが静かに姿を現した。
レオンハルトは第一声こそ発さなかったが、内心でつぶやいた。
(なるほど。噂と全く違う)
王家に次ぐ名門の令嬢であれば、堂々と気位の高さを見せてもおかしくない。
しかし彼女には傲慢さも虚勢もなく、
むしろこちらと距離を取ろうとする気配があった。
普通なら“好かれよう”と近づく場面で、
彼女は逆に柔らかく身を引いた。
(……僕に好かれては困る理由があるようだ)
その一点だけで十分に興味を引かれた。
さらに、隣に控える少年――義弟リアン。
レオンハルトが視線を向けた瞬間、
少年の気配が明らかに変わった。
騎士でも魔術師でもない。
それでも、姉を守るためだけに
静かに鋭さを帯びる“護りの気迫”が走る。
(義務だけの顔じゃないね。
この子は……姉に特別な感情を抱いている)
レオンハルトは確信した。
甘く穏やかな仮面そのままに、
軽い調子で問いを投げる。
「君は姉さんが大切なんだね。
……誰にも渡したくないくらいには?」
リアンのまつ毛が、一瞬だけ震えた。
それだけでよかった。
(やっぱり、当たりだ)
リディアには見せない、
少年特有の剥き出しの感情。
対照的に、当のリディアはというと――
レオンハルトが近づくたびに、さりげなく距離を取っていた。
本来なら王太子に気に入られることを望む立場のはずなのに、
彼女はまるで“そうなっては困る”ように、
慎重に、静かに距離を空けていた。
(姉弟そろって分かりやすいようでいて、
片方はまったく分からない。実に面白い)
レオンハルトはそう結論づけ、ゆっくりと口元を緩めた。
――この令嬢の“理由”を知りたくなった。
ただの興味。
恋でも執着でもない。
しかしレオンハルトは、興味を持ったものを放置しない性格だ。
そのわずかな興味が、
後に王都を巻き込む“断罪劇”の始まりになるとは、
この時の誰も気づいていなかった。




