楽しい楽しいお茶会
茶会が始まると、レオンハルトはさらに観察を重ねていた。
私が意図的に視線を逸らす。
距離をとる。
褒められてもふわっと笑って終わらせる。
そのたびに、殿下は微妙に口角を上げた。
「君は……僕に関わりたくないのかな?」
「い、いえ!?そんなこと……」
「そう。じゃあ、どうして距離をとるの?」
追及が鋭い。
そのくせ声は甘く優しいからタチが悪い。
(理由=未来の断罪を避けたいからです……なんて言えるわけない!)
「……緊張しているだけですわ」
「それなら、もっと近づいても良いだろう?」
近づいてはいけない。
存在ごと避けたいレベル。
(逆効果すぎる……!)
レオンハルトは紅茶を傾けながら言った。
「不自然なほど僕を避ける令嬢なんて初めてだ。
……君、面白いよ」
いやあああああああ!!
逆……!逆効果……!!
リアンは、殿下の視線を受けるたびに
こっそりわずかに身構えていた。
レオンハルトはその反応すら楽しげに拾っていた。
「義弟くん。そんなに睨まなくても大丈夫だよ」
「睨んでいません」
「ふうん?僕は鋭い視線を感じたけど?」
「気のせいです」
煽りがすごい。
表向き丁寧なのに、めちゃくちゃ煽っている。
でも私はまったく気づかない。
(今日の殿下、とっても穏やか!
ああよかった〜、好かれてない……よね?)
全然よくない。
レオンハルトは私を見るたびに、
「どうして避ける?」
「なぜ怯える?」
「何を知っている?」
そんな探るような目を向けてくる。
リアンはリアンで、
殿下の一挙手一投足を監視し、
殺気すら感じる。
私は私で、
(よし、殿下に“気に入られない令嬢”を貫けてるわよね!?
断罪ルート完全回避……のはず!!)
と信じ込んでいた。
……そう思っていた、一番平和な時期だった。




