王城への召集
そんな“気のせいでは済まされない空気”が漂い始めた頃のこと。
父様から、突然こんな言葉を告げられた。
「リディア。王家から招待が来ている。
レオンハルト殿下との顔合わせだ」
ぴくっ、と私の背筋が跳ねた。
断罪ルートの主犯その①、王太子レオンハルト。
その未来に加担する予定のその②、聖女ソフィア。
(……いやああああ。できれば一生関わりたくない!)
けれど家の立場的に断れない。
仕方なく、私は王城へ向かうことになった。
もちろん、リアンはぴったり横に。
「リディア姉さん、緊張していますか」
「そりゃするわよ……未来、ここで決まるかもしれないんだから……」
「未来は、姉さんが望む形にします。僕が」
妙に力強い言葉を残しながら、リアンは馬車の中でも私の手を離さなかった。
王城に到着し、案内された応接室。
そこに立っていた少年は――とんでもなく整った顔をしていた。
柔らかい金髪に、落ち着いた深い瞳。
微笑んだだけで場の空気が和らぐような、あの“王太子スマイル”。
……すべてが完璧。
完璧だからこそ、原作では私は断罪される。
私は心の中で叫んだ。
(よし!とにかく“気に入られないように”しよう!
印象薄めに!静かに!うっすら距離をとるのよ私!!)
そう決めて、控えめに礼をする。
「……お招きいただき、恐縮です。殿下」
レオンハルトはふっと目を細めた。
「思っていたより、ずいぶん柔らかい子なんだね」
柔らかい声。
けれどその視線は、私の内心を探るように鋭い。
(やばい……この人、頭がすごくキレるタイプだ……!)
私はますます距離をとる。
「い、いえ……わたくしは……あまり……」
うろたえて、語尾が消えた。
するとレオンハルトは微笑んだ。
甘く、余裕のある顔で。
「面白いね。
僕から距離をとる婚約候補なんて、初めて見たよ」
し、失敗した……!
好かれないどころか、変な興味を引いてしまった!
そして彼の視線が横へ移った。
私の隣にいるリアンへ。
リアンは背筋を伸ばし、完璧な礼をしていた。
「リアンです。姉さんがお世話になります」
レオンハルトはわずかに目を細め、
まるで宝石の鑑定でもするかのように、リアンの瞳を覗き込んだ。
「……君、分かりやすいね」
「……何が、でしょう」
「姉さんが誰かに“取られそう”だと不安になるタイプだ」
リアンは一瞬だけ息を呑んだ。
私は気付かない。
いつものやつだ。
(殿下、観察力がすごい!
“仲が良い兄弟だ”ってすぐ分かったのね!)
レオンハルトはさらに甘い笑みを向けた。
「大丈夫。僕はまだ誰も取る気はないよ。
……“まだ”ね?」
リアンの目が一瞬だけ鋭く光る。
しかし表向きは丁寧に微笑んだまま。
「姉さんが望むなら、僕は従うだけです」
「それは楽しみだ。
姉さんの望み……ね」
二人とも笑っているのに、
私には意味がまったく分からない。
(ああもう、リアンは本当に優しいわね〜。
なんだか2人とも仲良くなったみたいだし!よし、断罪回避ルート順調!)
私だけが、平和な脳内にいた。




