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第6話 どきどきな再会 ×(かける)2!


「まさか、2日続けて医務室で寝過ごすって……」


 夏は遅い時間まで明るい――とは言え20時ともなればすっかり陽も落ちて、辺りは夜闇に包まれている。再び医務室のベッドの上で目覚めた陽翔は、愕然と呟いた。


「まずっ、早く帰んなきゃ」


 跳ね起きて、医務室と廊下をつなぐ扉に駆け寄るが、昨日と同じくしっかり施錠されている。恐らくこれを開けば防犯設備を作動させるトリガーになってしまう。


「あーもぉっ」


 焦りつつ、もしやとの思いも込めて、昨日鍵が閉め忘れられていた窓に近付く。


「あー……羽理(はり)先生、不用心すぎるよ」


 ホッとするより先に、脱力の声が漏れた。

 窓は、カラリと軽快な音を立ててすんなりと開く。


「タバコはやっぱし無かったし、さっさと帰んなきゃ、なっ」


 ヒラリと窓から飛び出して、中庭に降り立った陽翔は、慎重な手付きでそっと窓を閉めようと手を伸ばす。


「……め……さい」


「ごめ……な……さい」


 弱々しい少女の声が、窓の向こうから途切れ途切れに聞こえる。夜の校舎にか細く響く声——普通なら、怪奇現象か、事件の二択の状況だろう。

 けれど、陽翔にはその声に聞き覚えがあった。


「この声っ! 俺を突き飛ばした女子っ!!」


 一晩経った今も、はっきりと耳に残る自信なさげな声。昨夜、煙草を取ろうと医務室に身を乗り出した彼を、乱暴に突き飛ばして中庭へ押し出した少女のものだ。中庭の泥の上に転がった陽翔は急いで身を起こし、医務室の窓を覗いたが、それだけの僅かな間に少女だけでなく、物々しくも煌びやかな集団までもが消え去っていた。


「今度こそ逃がさねー。絶対に文句言ってやる!」


 憤然と窓を覗きこめば、そこには昨日見たのと同じ少女が、呆然と見開いた眼を向けて来る。


「いた!」


「え?! 痛い? 魔物さん、どこか痛いんですか!? わたしが押し出したから? もしかして、魔物さんは押し出されてからの時間が繋がってる?」


「んあ?」


「はわわわわっ、わたしが突き飛ばしたから……聖女の軽い一押しは、大きなオトコノコに見える魔物さんでも、人とは違って酷いダメージを受けるのですね! そうとは知らず、ごめんなさい! すぐに手当てしないとっ」


 言うなり、少女は扉から両手を伸ばして陽翔の両腕を力強く握り、窓の中へ引き入れようと力を込める。


「え、え、え? ちょっと待って! 何か勘違いしてるって!!」 


 言葉の取り違いが発生して焦る気持ちもあるが、改めて少女を見れば、なかなかの清楚系美少女だ。その彼女から強引なボディタッチを受けては、穏やかではいられない。文句はどこかへ吹き飛び、心臓はご機嫌に飛び跳ねる。

 そんな陽翔の心中に気付きもせず、少女はさらに愛らしい笑みの追撃を発動させて、ぐいと顔を近付けた。


「御心配には及びません! わたしは聖女ですが、魔物と見れば容赦無しに退治してきた歴代の聖女や神官とは違います。傷つき惑う者に寄り添い、癒すのがわたしの責務ですから」


「それは困るな。私の婚約者は、この王国に寄り添い、国民を癒すために力を尽くしてほしいのだが。真面目に聖女の能力向上訓練に励んでいるなら、ここを出してやるのもやぶさかではないと確認に来れば……。まさかまたオトコもどきを連れ込んでいるとは」


 ふいに第三者の言葉が割り込んで、少女がギクリと両肩を跳ねさせる。


「でっ……でででで、でんでんでん殿下っ!?」


 声をひっくり返させて、首を忙しく陽翔と背後の派手な青年に行き来させる。


「昨日も居たそのオトコもどきが、結界を超えて現れた者だとは納得したが……。私は不貞を許したわけではない!! 聖女の心まで惑わせる魔物とあらば、放っておくことはできん! この場で討伐してくれる!!」


「「なんっ……!?」」


 少女と陽翔が同時に困惑の声を上げる。気の合う反応を見た青年は、ますます眦を吊り上げ、腰に差した剣をスラリと引き抜く。


「ふぅわっ!? あぶないですっ!! やっぱり魔物さんは異界へ帰ってくださいっ!!」


 上半身を室内に引き入れられ、窓枠を乗り越えていた陽翔(はると)だったが、今度は打って変わって容赦ない力で押された。体勢を崩しかけ、反射的に手近なモノを掴んで引き寄せる。


「きゃっ!?」


 少女の声が間近に響いて視界がぐるんと反転する。

 そのまま2人揃って、背中から窓の外へ落ちてしまう――そう思った彼らの腰に腕が回され、別の力が加わった。


「でんっ……かっ!?」


「マリアナっ!!」


 驚愕に目を見開くマリアナに、王太子は握っていた剣を投げ捨てて手を伸ばす。

 そしていつもの余裕をかなぐり捨てた必死の形相で、もどかしくも手の掛かる()()()婚約者の名を叫んだ。


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