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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛と平和の国

作者: 木田 梅子

愛と平和に満ち溢れ、とても調和のとれた国があった。人々は日々幸せに暮らし、愛に満ち溢れ、規律を重んじ、お互いを慈しみ何事にも助け合う、そんな国があった。

ある時、自分たちもその国のようになりたいと妬んだ、隣の国の者が現れた。

その者は妬みから、やがて自国を巻き込み、自分の思想を人々に植えつけた。

その思想はやがて、妬みから思い込みへと変わり、自分たちがその平和な国の始祖だと言い始めた。

「平和の国はもともと我々の国である。返却せよ」と、国を巻き込んだ、歪んだ心で一杯の国が出来上がっていた。


平和の国との交渉は、とても難しいものであることは、どの国にも知られていた。

そしてどの国も、この国がとても素晴らしい国であることも、とても良く知っていた。

そして、平和に満ち溢れた国が、自国民を重んじ、国外からの者は基本受け入れてはいない事も、誰しもが知るところであった。

愛と平和を基本とし、調和を保つ為に守られている国。

この国の誕生と共に芽吹いた、この国の命のみに宿っている大切な思いだった。


だが悪の思想は煙のように、どんな隙間も漂いながら嘲笑う様に侵入してくる。


ある時、平和の国の入り口前に、ある来訪者が現れた。

入り口にいる平和の国の門番は、見かけるとすぐに丁寧に断りを入れた。

「大変申し訳ございませんが、我が国は他国の方の入国を、どのような理由であれお断りさせていただいております。」

すると来訪者は跪き、手を合わせて願いを乞うた。

「私はこの国の噂を聞き、この国の民となりたく、遥々やって来た次第にございます。お願いです。どうか私をこの国の国民として認めていただけないでしょうか」

門番はどうしても無理だと答え、自分の国に帰るように丁寧に諭しながら促した。

来訪者は諦めきれず、しばらく願いを乞うてみたが、何度伝えても無理だった。

がっくりと肩を下ろし、自国に帰る辛さを思って来訪者は泣いた。

それを見て門番は、

「貴方をこの国の国民として迎え入れることはできませんが、貴方の心がとても清く美しいことを私は知りました。道のりは厳しいでしょうが、この国に負けない幸せな国を、貴方ならきっと作ることができるでしょう。ぜひ肩を落とさず、その清く美しい心を、貴方の国の国民に広めてください。この国に負けない、幸せな国をつくられた時にまたお会いましょう。貴方の幸せの為に私たちは祈っています」

門番は、そこにいた仲間の5人を呼び寄せ、来訪者に船を用意した。

そして出立のとき、それぞれが来訪者に敬意をもって、これからの幸せを願い、固く手を握りしめた。

最後の門番が、無事の航海を祈り、美しい花束を渡した。

来訪者はその思いを胸に、未来に向けて真っ直ぐに国を目指し、進んでいった。

その国の国民になれずとも、丁寧に扱われる来訪者達は、心が幸せで満たされ、勇気を得て、自国に帰って行く者ばかりだった。

ある時また、同じように来訪者が現れた。

その者は隣の国からの来訪者だった。

その者もまた、他の来訪者達と同じように断りを得た。

だがどうしても断りに納得できない。

納得できぬまま、感情を抑える事なく暴言を吐きちらし、自分の国へと戻って行った。

そんな偏った考えをもった隣の国の来訪者は、しばらくして、軍艦を数えきれないほど引き連れ、再び現れた。

「私はわざわざこの国に訪れたのにも関わらず、入国を拒否された。これは私、いや我が国に対する侮辱である。愛と幸せの国よ!その報復を受けよ!」

国を囲むほどの軍艦と空からの猛攻撃により、愛と幸せの国は真っ黒に滅亡してしまった。

偏った来訪者とその国のもの達は、自分達こそ平和の使者だと声をあげて叫んだ。


世界が羨むほどの愛と平和と秩序のある、すべての調和のとれた幸せの国が一瞬で亡くなってしまった。


その訃報はすぐに世界に届いた。

「あぁ、なんということを。」

愛と平和の国を知る国々は、嘆き悲しんだ。

「私はあの国のおかげで、ここまでやって来れた」

「あれほど慈愛に満ちた国はない。なんということを」


平和の国が滅びた後、

真っ黒の国を踏みつけながら、

「この国はもともと私たちの国だったのだ」と勝手な解釈をし、隣の国の者たちがどんどん移住を始めた。

だが一向に国内にまとまりがなかった。

国内に争いは絶えず起こる。

国民の自己主張も強いため、治安も悪い。

そこに、愛と平和の国があったとは到底思えない国になっていた。


愛と平和の国に背中を押され、未来に向けて、勇気と努力を惜しみなく人生に注いだ人達がいた。

皆しっかり自分の足で立ち、慈愛を忘れず、少しでも平和に保てる国であろうと努力した者たちだ。

その者たちは皆、愛と平和の国が滅ぼされてしまった事に、酷く嘆き悲しんだ。

滅ぼされた土地もまた、愛と平和からは程遠くなっている事にも嘆いていた。


愛と平和の国に断られ、侵略した来訪者は、国の乱れに気付いていたが、党首になり、崇め称えられてしまっていたため、既にとりかえしがつかなくなっていた。


そしてそれは、愛と平和の国を愛した者たちの思いが、だんだんと世界にひろがり、その者たちが行動を起こしていた事にも気付くことはなかった。


真っ黒い国とその隣の国にむけて、鮮やかな色の船と飛行機がやってきた。

あまりに美しい船と飛行機に、2つの同一国の人々は目を奪われた。

しばらくすると美しい音楽が流れて来た。

音楽が流れると、空からは美しい花びらが沢山ひらひらと落ちて来た。

船からは可愛らしく飾られた大砲から、さらにたくさんの花びらが放たれた。

ふたつの国は、あまりの美しさに驚いていた。

たくさんの花びらが国中に舞い、その国を讃えているようだった。

「我が国を他の国が讃えている。」そう思った党首は、すぐさまその歓びを、同一の自国民に伝えた。

だが、その花びらには終わりがなかった。

いつ終わるのかわからない程に、空からも海からも続いた。

街中が花びらで埋め尽くされ、先に舞った花びらは腐り始めていた。

その腐臭があちらこちらで発生していく。

軍用機にもいつのまにか花が細工され、気付いた時には動けなくなっていた。

されるがままだった。

たくさんの花びらは、美しいばかりか、その国のいろいろなものをダメにした。

国民もその1つで、終わりのない状況に人々は狂い始めた。

偏った考え方を植え付けられた人々ではあるがゆえに生きる道はなく、今は逃げ道もなかった。


「その花びらは、愛と平和の国より我等に捧げられた種より生まれし花である。どの国も豊かであれ。慈愛の心で平和を思い、愛情を忘れないように、国民がいつでも心に安らぎを得られるよう大地にたくさんの花を植えよ。と、たくさんの花束と共に、私達に毎年贈られた花の種である。愛と平和の国を滅亡させた貴殿らに、私達がどれほどの怒りを覚えたか知らないだろう。

爆弾や銃を使うことは出来たが、それは愛と平和の国の意向に反する。皆の国にある忘れ形見を使い、貴殿らに向けて敵討とした。愛と平和の国は本当に素晴らしい国であった。全ての国で咲いている。まだまだ存分にあの国の素晴らしさを味わうがいい」

愛と平和の国は毎年、他国にたくさん花と、花の種を送っていた。

国にやってくる来訪者にも、送り返す時に花束と花の種を渡していた。

その想いを受け取った国の党首や、未来に向けて勇気を出した者達は未来に希望を込めて花を咲かせた。

欲望で偏った考えの国は、自分達が1番であると思っていたので、贈られると面白くなくて捨てていました。

舞う花びらは、日ごとに増えていきました。

人々も狂い始め、花の腐臭だけではなく、そこに毒素も出始めました。

彼らは一瞬で、愛と平和の国を滅亡させましたが、各国や、その国に触れた者達の嘆きと悲しみ、そして何よりも、滅っせられた愛と平和の国に敬意を払い、各国はいろいろと時間をかけ考えました。

共同国はどこもかしこも積もった花びらで一杯でした。

つもりに積もった花びらの国に、突然大きな竜巻と大地震、そして国を飲み込むほどの大津波がやって来ました。


予測をしていた各国の飛行機や軍艦は、共同国から離れて、天災が来るのを待っていました。


天災が去った後、2つの国もろとも、何もなくなっていました。

そこには広い大地だけが存在していました。


愛と平和の国を取り戻した各国の人々は、その何もない大地を見て泣きました。

「かつてあった誇り高き、愛と平和の国の人々の為に、我々はこの花の種を贈り、あなた方への感謝の想いを捧げます。永遠に愛と平和を」


愛と平和の国には、

いつでもたくさんの美しい花が、人々の優しい想いをのせて咲いています。



愛と平和の国とは、愛と慈しみの心を持ち、秩序と平和を重んじ、人々との調和を大切に、自国の民を守り抜いていた。


心から愛し尊敬できる国であった。


雌蕊は雄蕊に潰されて、雄蕊は花弁に包まれる。朽ちた蕾は、しわがれて、やがて茎から地へ落ちる。

そしてまた、花は咲く。

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