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第44話:軽風と月の毛布



ルクスは、そよ風の中、膝を揃えて座るエミリーをじっと見つめる。彼女はまるで氷の塊、荒れ果てた草地にポツンと立つ。でも、風にスッと消えそうな、ふわっとした揺らぎもある。


「なあ……ちょっと、寄っかかってもいい?」ルクス、自分の肩をポンと指し、心にこの「冷たい小草」を支えたい衝動が湧く。


「いらねえよ。」エミリー、静かに。


「俺の住んでた場所、めっちゃ最悪だった。ゴミだらけ、暴力だらけ。」ルクスの声、ぼんやりした月光を突き抜ける。


「ケーキも買えたし、腹も満たせたけど、心はいつもフワフワ。安心なんてねえ。特に、俺には可愛い妹がいたから。だから、ずっと逃げたかった。ミティを連れて、あのクソみたいな場所から抜け出して、乳牛がいて、野花が咲いて、静かに好きなことできる場所に行きたかった。」


「でも、逃げるの、マジでキツい。頑張れば頑張るほど、心の奥でビビる。過去の努力が全部泡になっちまうんじゃないかって。だから、どんどん慎重になって、めっちゃ必死に『ヤバい奴』演じるしかなかった。」


ルクス、ふと何か思い出し、エミリーにニヤッ。「実はさ、俺、昔はずっと男の子のフリしてた。短髪にして、喋り方や動き、ガキどものマネしまくった。ミティに『お兄ちゃん』って呼ばせたり。ハハ、結構笑えるだろ?」


エミリー、ルクスの白いけどちょっと「カッコいい」顔をチラッと見て、ポツリ。「確かに……お前、兄貴役、似合ってるよ。」


「マジ? なら、褒め言葉サンキュ!」ルクス、エミリーの言葉をしっかり聞きつつ、ソロソロと体をずらして、こっそり近づく。


「もし、どんだけ頑張っても嫌いな生活から逃げられなかったら、どうすりゃいい?」エミリー、静かに聞く。


「逃げられねえなら……誰かに手を差し伸べてもらうしかねえ、かな。」ルクス、答える。


「そりゃ……絶望的な答えだな。」エミリー、かすかに。


「待つの嫌なら、クソみたいな生活と握手するしかねえよ。汚ねえ街でケーキ屋探したり、暗い路地で小さな野花見つけたり、クソみてえな紫の都の夜に星見上げたり……そう考えると、昔の生活、案外悪くなかったのかもな。」


「星……そんなにいいもんか?」エミリー、夜空をガン見。キラキラ光る星が、黒を細かく突き破る。ちょっとキョトン。


「さあな、俺もわかんねえ。でも、ミティは晴れた夜の星が大好きだった。雲一つねえ夜。俺、キラキラの星に何が隠れてるかさっぱりだけど、ミティと一緒に喋って、ずっと変わらねえ星見てるだけで、夜も悪くねえって思えた。」


「そっか。」エミリー、ポツリ。


「もし、あの時、ミティを連れて紫の都を出られてたら、俺とミティ、こんな草地で星見てたかな。」ルクス、夜風がスースー冷たく感じる。こっそりエミリーにまた近づく。風、ちょっと避けたいし。


「でも……星、どこで見ても同じじゃね?」エミリー、ルクスのズルい小細工に気づかず、聞く。


「だな、夜はどこも同じ。でも、感じ方が違う。見る目が大事だよ。気分が良けりゃ、目もキラッと明るくなって、夜だって綺麗になるだろ?」


「屁理屈……」エミリー、クスッ。


「これ、ルクス哲学! 学校行ってねえけど、俺、めっちゃ賢えぜ!」ルクス、ドヤ顔。


「プッ……」エミリー、ルクスのふざけっぷりに、笑いそうになるが、グッと堪える。


「マジだって!」ルクス、ちょっとムッ。さっき、めっちゃ真剣だったのに。


「わかったよ……」エミリー、仕方ねえな、って感じ。


風、ちょっとおさまる。さっきまでユラユラ揺れてた小草、今はたまにサラッと震えるだけ。


「実は、俺と兄貴の関係……あんま良くなかった。」エミリー、ポツポツ話し出す。「兄貴、俺にやたらと古代エルフ帝国の話、聞かせてきた。輝木王権時代とか、暮林守望者の物語とか、どっかで仕入れた史詩をガンガン語る。俺、興味ねえのに、兄貴、飽きずにベラベラ。俺もその話好きになるって思ってたみたい。」


「あと、兄貴、風に名前つけるの好きだった。変だろ? 風に名前なんてあるかよ。スッと消える、掴めねえ、見えねえのに。でも、兄貴、めっちゃ楽しそう。暖かい風は『ロナン』って呼んで、同じ風が吹くと『ロナン来た!』って挨拶。今の風なら、たぶん『ウィスパー』って名づけるな。」


ルクス、静かに聞く。名前つけるの、マジむずい。エミリーの兄貴、すげえセンスだ。


「でも……親、兄貴のそんなとこ、嫌いだった。『変人』って感じで。」エミリー、声が風に震える。「反乱の夜、兄貴……俺の窓の下に来て、叫んだ。『降りてこい、一緒に行こう』って。」


「でも、俺、行かなかった。めっちゃ怖かった、マジで……ビビった。窓越しに兄貴見て、叫ぶ声聞いて、でも動けなかった。その夜、部屋から一歩も出なかった。」


長い沈黙。二人、薄暗い星みたいに、並んで静かに座る。ルクス、これ以上近づいたらエミリーにくっついちまう、ってとこでピタッと止まり、そっと隣で星見る。


エミリー、あの話の後、口閉ざして、動かねえ。


時間、止まったみたいに流れる。夜、時間の感覚を凍らせる。二人、夜の闇に溶けちまいそう。


月光、なんとも言えねえ眠気を連れてくる。エミリーの目、冷たい月と連日の疲れに勝てず、ゆっくり閉じる。


夜風ウィスパー、まるで魂持ったみたい、そっと押す。エミリー、弱い小草のよう、首をスッと傾け、静かにルクスの肩に倒れる。尖ったエルフの耳、ルクスの頬にサラッと触れる。


「兄貴……」エミリーの寝言、静かな夜をポッと灯す。ルクス、起こそうとした手、空中でピタッ。


『ハハ……お前、うっかり俺を兄貴って呼んだな。なら、今回だけ、こうするの許してくれよ……』


「ミティ……」ルクス、そっと呟き、手を伸ばし、エミリーの髪を優しく撫でる。


眠気、ルクスにもガバッと襲う。彼女、そっと体を調整、二人をゆっくり草地に横たえる。二人、寄り添って、夜の冷たい草地で眠る。


遠くの月、冷たかったのに、なんか優しくなる。


皎潔な月光、まるで薄い毛布、


そっと覆う、


傷だらけで、寄り添って温め合う二人の少女に。


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