第30話 ルクス爆裂斬
ルクスはショクブツジンの捕獲作業に加わらなかった。無論、誰も彼女の助けを必要としなかった。
逃亡者を追った精霊ラミアとカイルも、七八人の固く縛られたショクブツジンを連れ戻った。
ざっと数え、今回の作戦で三十数人が捕らえられた。無論、精霊を怒らせ、かつ彼らの食欲を刺激し、その場で「食われた」哀れなトマト人を除く。
今、精霊たちは村の隅々を捜索し、隠れた者を探す。やがて、地窖から震えるショクブツジンの子二人を引っ張り出した。
ルクスは気づいた。最初に捕らえられたのは、頑強な男ショクブツジンだ。彼らは村の守衛として、婦女子の逃亡を遅らせようとしたのだろう。
後に連れ戻されたのは、女ショクブツジンや子供たちだった。
『ショクブツジンにも……性別があるんだ……』
ルクスは、外見の奇異さを除けば、彼らは人間と何ら変わらぬと確信した。
彼女は村を見回した。隅に干された粗末な衣、地面に石や枝で描かれた拙い落書き――子供の乱塗りだろう。
泥や粗悪な煉瓦の簡陋な家には、粗木の「机」と呼べるものが置かれていた……全てが語る。ここに住む者も、かつて人間の如く生きていた。一緒に飯を食い、語らい、子供たちは空き地で遊び、平凡で退屈かもしれないが、確かに「生きていた」日々を。
ルクスの視線が彷徨う。家々、散らばる品々……やがて、大きな石板で積まれた貯蔵庫の入口に止まった。
暗い石板の隙間から、一対の……目が覗く。
ルクスは静かに近づいた。
隙間の奥に、小さな影が縮こまる。
蘑菇人の少年だった。
彼は恐怖に満ちた目で、隙間から外の惨状を凝視していた。
ルクスと目が合う刹那、少年の恐怖が溢れんばかりに。
ルクスは即座に「静寂、停止」の手信号を送った。精霊の手振りだが、蘑菇少年が理解できるか不明。幸い、少年は彼女の信号を見て、叫びを抑え、恐怖に震えつつ動かず。
ルクスは周囲を見た。
数人の精霊が遠くの家を捜索中だ。
すぐこちらへ来るだろう。
時間がない。ルクスは躊躇を捨て、隙間の少年に両拳を握り、両手を広げる信号――ルクス即興の「逃げろ」だ。
次に、密林を指し、エミリーの教えた「後方迂回」の信号で、精霊の視線を避け林から逃げるよう示した。
少年がどれだけ理解したか、ルクスは構っていられない。
彼女にできるのは、逃亡の機会を創ることだけだ。
最後に、ルクスは四指を揃え、鷹爪の如く曲げる――「行動準備」!
「ルクス爆裂斬!!」ルクスは跳び出し、大喊した。
鉄剣を掲げ、体内の魔力を剣身に集め、全力で空き地に叩きつけた。
「ドン――!!!」
魔力爆発、土と碎石が村を覆い、煙塵が視界を遮った。
「人間!! この呪われた狂猿! 何やってんだ!?」サブリナの怒声が飛塵を貫き、皆の鼓膜を突き刺さんばかり。
「ごめんごめん! さっき、閃いたんだ! 超すごい必殺技を思いついた! インスピレーションが急に来て、すぐ掴まないと逃げちゃうから、試してみたの。将来、隊に強力な力を貢献するためさ。残念……あと一歩で、技は完成しなかった……」ルクスは惜しむ調子で言った。
眼角で石板の隙間を盗み見る――よし、蘑菇少年は混乱に乗じて逃げた。
『上出来!』ルクスは内心、安堵した。
だが、サブリナは見逃す気がない。
金髪精霊はルクスに詰め寄り、鼻を指して咆哮した。
「お前の保証人が誰か、知ってる!? お前の愚行と存在が、エミリー隊長の名声にどれだけ悪影響か、知ってる!? 三ヶ月後の祝祭が隊長にどれほど重要か、知ってる!? この呪われ、自私で愚かな人間! お前は何も知らん!!」
まあ、ルクスは罵られる覚悟済みだ。
サブリナが一日罵っても、受け入れる。
だが、声でかすぎだろ!?
精霊族に、声で人身攻撃を強化する魔法でもあるのか?
「いい加減にしろ、サブリナ。」ルクスの耳が震えそうな時、エミリーの声が響いた。
「私がこの人間の保証人なら、彼女を叱るのは私でいい。」
「でも……エミリー隊長! この呪われた猿に、隊長が口を費やす価値なんて!」
サブリナの声は不甘と屈辱に震える。
だが、エミリーが再び手を振ると、ルクスを歯噛みし、去った。
失礼ながら、ルクスは本気で思った。エミリー、次はサブリナに首輪を付けろよ。
「大変申し訳ありません、エミリー隊長!」ルクスは真摯な謝罪の顔に切り替えた。
「謝意を込めて……靴磨きします! えっと……隊長の靴を脱いで渡していただければ、ピカピカに磨いて返送します……」
エミリーはルクスの言葉を無視した。
彼女はルクスを見据え、言った。「今、蘑菇人を逃がしたな?」
ルクスはエミリーの洞察に驚き、咄嗟に誤魔化そうとした。
だが、碧緑の瞳に射られ、諦めた。
解雇確定だ。追放だけで済むといい。シルヴィの元に戻り、一日でクビの話を語らねば。
「はい。」
ルクスは正直に認め、エミリーの目を見つめた。
その碧緑は、深く、捉えがたい。
「自分が何をしてるか、分かってればいい。」エミリーはルクスと見つめ合い、そう言い残し、去った。追及の意思はないらしい。
ルクスは呆然と立ち尽くした。
解雇されない? シルヴィの家に夜逃げしなくていい?
それが良いことか、今、彼女には全く分からなかった。
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