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第28話「ローランドの物語」

それは危険な物語だった。


厳禁とされた過去の話。


遙か五百年前、六大神が世界を支配した時代。


すべての種族は、神の導きと威光の下で生き、繁栄し、諸神に無上の敬仰を捧げた。


だが、神権が絶頂にあったその時代、一人の叛逆者が現れた。


彼はなんと……至高の神の権威に挑んだ。


なんという傲慢、なんという無謀か!


彼はドワーフの鍛冶名匠ジャスパー・ソーン(Jasper Thorne)が命を懸けて鍛えた伝説の剣を掲げた。


剣を掲げ、そして……斬り始めた。


無数の敬虔な神職者、さらには高位の神の使者、


彼の剣鋒は、その血を浴した。


彼こそ、後世に讃えられ、呪われた勇者――ローランド(Roland)だった。


彼の足跡は神恩大陸しんおんたいりく全土に及んだ。


凍てつく寒風が吹き荒れ、万里を氷封する雪山の頂を越え、牛羊が群れる広漠な草原や巍峨な山脈を踏破した。彼は危機四伏、生気溢れる原初の森や神秘の領域に分け入り、魔族が占拠し、神恩の及ばぬ無神之地に単身突入した。


彼はかくも無畏、かくも強大だった。


天地を滅する魔法も、神業の武技も、彼は世に稀な驚嘆の才を示した。


そして、彼の傍らには忠実な仲間が従った。


【闇月の舞姫やみつきのまいひめ】ダスク(Dusca)、【龍血の狂焔りゅうけつのきょうえん】ヴェルダナ(Veldana)、【蒼天の護盾そうてんのごじゅん】マリン(Marin)。


そして……最後の裏切り者、【闇魔の術師やみまのじゅつし】レイヴン(Raven)。


勇者ローランドは幾多の試練を乗り越え、ついに天の座に到達し、神座に君臨する諸神に最終の挑戦を挑んだ。


だが、最も信頼した仲間の一人、【闇魔の術師】レイヴンが、最も決定的な瞬間に彼を裏切った。


功敗垂成、ローランドは諸神の包囲に倒れ、その身は怒れる神々に無数の欠片に引き裂かれ、世に散った。


忠実な三人の仲間、ダスク、ヴェルダナ、マリンも免れず、各々が信奉する神から永遠の恐るべき罰を受け、惨憺たる末路を辿った。


卑劣な裏切り者レイヴンは、六神の承認と「褒賞」を得、神格昇華の資格を授かり、


六大神以外の……第七の神祇――闇と罪罰を司る無神之地の新主となった。


以来、勇者ローランドとその仲間は、神教の教会により極悪の罪人とされた。


彼らは悪党、冒涜者とされ、公式に改竄された物語では、ローランドは巨大帝国を統べ、淫蕩で残暴な君主に仕立てられた。


だが、勇者の雄姿を目撃した最初の吟遊詩人が、街角でその真実を囁き始めた時、


さらに多くの吟遊詩人が加わった。彼らは詩を作り、曲を奏で、隠された真実を少しずつ広めた。


その行為は諸国の支配者と神殿により重罪とされ、殺身の禍や残酷な死刑を招いたが、


名も無き詩人たちは歌うのを止めなかった。


彼らは前仆後継、命と熱血で勇者の物語を代々伝えた。


やがて、底辺の民衆が神殿の虚偽を信じなくなるまで。


彼らは、この世に天の座へ剣を振るった凡人がいたと信じたかった。


これが、失敗の勇者――ローランドの物語。


ルクスはシルヴィの吟誦を真剣に聴き終えた。物語を語る間、シルヴィは魂を「史詩」と呼ばれる虚空に浸し、まるで彼女が言う吟遊詩人のように、表情は没入していた。


『シルヴィって、実は精霊族の吟遊詩人なんじゃない?』ルクスは心で推測した。


だが、彼女は尋ねなかった。


もしシルヴィが吟遊詩人なら、唯一の聴衆であるルクスに必要なのは、静かに耳を傾け、物語の幕引きに拍手を送ることだけだと思った。


「パチパチパチ!」ルクスは力強く拍手した。


「めっちゃ上手!すっごく良かった!」ルクスは心から称賛したが、すぐに少し複雑な表情を浮かべた。


「でも、これって、私が呑噬した水晶の欠片が、勇者ローランドの欠片ってこと?」


「たぶん、そうだと思う。」シルヴィは軽く頷いた。


「それやばいじゃん!」ルクスは途端に、超気まずく、めっちゃ危険な巨大な渦に落ちた気がした。


特に、目の前のシルヴィがローランドの熱烈な崇拝者だと確信したからだ。


「その欠片、たぶん三ヶ月前に呑噬っちゃって、今さら取り出せないと思う……」


「取り出す必要ないよ。ルクスのせいじゃない。」


シルヴィは「吟遊詩人」の状態から抜け出し、柔らかな口調でルクスを見た。


「欠片が、つまりローランドの残魂が、ルクスと融合することを選んだんだと信じてる。」


「まさか……それって……」ルクスの顔が真っ白になり、どんな美白粉より効果的――まさに「恐怖牌」強力美白霜だった。


「いやいやいや!絶対ダメ!私、勇者とか絶対なれないよ、本当に!」


シルヴィの期待と憧れの眼差しに、ルクスは頭が爆発しそうだった。こんなに助けてくれたシルヴィを失望させたくない。


深呼吸し、彼女は誓った。「シルヴィ、どんなことでも頑張るけど、勇者だけは……絶対失望させるよ。」(もちろん、「なんでもやる」は本心じゃない。ルクスは自分の底线をわかってる。本当に最低なことはできない。でも、シルヴィへの信頼と感謝で、ついそう言った。)


「じゃあ、ルクス、導きでここに来たんだよね?何を探してるの?」シルヴィは失望せず、話題を変えた。


「うーん……」ルクスは指の間をいじった。


「実は、勇者ローランドの欠片を探してる。」彼女はシルヴィの目を見て、決然と言った。


「だって、妹のミティを復活させたいから。」


「そうなの?」シルヴィは驚いた。


「ローランドの欠片を集めれば、死者を復活できるって思うの?」それはシルヴィの知識を超えていた。


「うん、絶対できるって信じてる。」ルクスは内心100%確信してなかったが、強く言った。


「じゃあ、頑張って!」


シルヴィは軽く頷いた。「だって……神恩大陸じゃ、ローランドを密かに敬う人は多いけど、欠片の具体的な役割を知る人はまだいない。私の知る限り、既知の勇者欠片は各大神教が禁忌として、神殿の最奥に厳重に封蔵してる。普通の人は触れられないよ。」


シルヴィは心配そうな顔になった。


「私たちの精霊族が信奉する生命と自然教派が封蔵する勇者欠片の……場所なら知ってる。教えてあげる。」


「シルヴィ、教えて!」ルクスは即答し、希望が湧いた。


「その欠片は……輝光の空地の中心、聖殿の最奥の禁地にある。そこは、生命と自然の神の神使様と、三人の副神使様しか入れない場所なの。」


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