第3話 『兄妹』と白羊の夢
全身、ズキズキ。筋肉、叩き潰されたみたいにグニャグニャ。
太腿の傷、歩くたび、ビリッと裂ける痛み。
ルクス、それでも走る。急いで、気がかりで、路地の迷宮をスイスイ。知ってる角をクルッ、ひとり通れる隙間をグイッ、ようやく暗い路地を抜けた。
目の前、三階建ての平屋、ギュウギュウの家々の間に挟まる。木のドア、ボロッ。布の窓、破れ破れ。ドア脇、傾いた看板、炭で「新鮮パン」、横にパンの絵、なんちゃって。
目立たねえパン屋、ルクスとミティの家。
ルクス、ドアに近づき、怪しい影ナシ、ホッと息を吐き、ギィッと木のドアを開けた。
「いらっしゃい!」中から、キラキラした声、初咲きの菊の甘い香り。「お兄ちゃん、帰った!? ……って、お兄ちゃん! めっちゃ傷だらけ!?」
紫のスカートの少女、ミティ、ズカズカ駆けてきた。ヘッドスカーフで茶髪を束ね、白い顔、初雪みたい。淡い黄色の瞳、澄んで、春の鳥のさえずりみたいな温かい世界を映す。
彼女、ルクスのボロボロっぷり見て、パンいっぱいのカゴをポイッ、焼け防止の手袋ペイッ、ルクスの前へダダッ!
「お兄ちゃん」、ミティのルクス呼び、ルクスのリクエスト。
「お兄ちゃん、顔……血いっぱい!」ミティ、心配で声プルプル。ドアにダッシュ、「臨時休業、ごめんなさい」の札をパッとひっくり返し、ガチャッと錠かけ、ルクスをグイッと二階へ。
「ミティ、ちょっと……スッ……痛え!」ルクス、呻く。
「ごめん、早く座って、服脱いで!」ミティ、窓ガチャッ、ドアバタン、急かす。
ルクス、埃まみれの外套、パンツ、胸縛る布、スカーフをペイッ、青紫の痣だらけの体、木の椅子にドサッ。椅子下、縫い目のガタガタ毛皮ブランケット——ルクスが闘獣場で安く買った子熊の死体、皮ボロで安かった、ミティの縫い練習用。グニャグニャ縫い目、でもミティ、捨てられねえ。
ミティ、傷見て、唇噛む。「お兄ちゃん……」優しく呼ぶ。小さな手、傷にそっと。掌からフワッと白い光! 赤く腫れた傷、シュシュッと癒える! ルクス、温かい流れ、四肢に、冬の暖炉みたい、骨の痛みまでスーッと溶けた。
「顔の傷、治すな。」ルクス、頬に伸びるミティの手、ガシッ。「全部治ったら目立ちすぎ。布巻いとけ。」
「何!? 誰にやられたの、こんな傷!?」ミティ、心配でキリキリ。
「道でバカなチンピラ数人。」ルクス、ニヤッ。「全員ぶっ倒した! もう来ねえよ!」
「もう、こんなんじゃ外に出せねえ!」ミティ、頬プクッ、ムッとして、湯沸かして、タオルでルクスの血と埃をゴシゴシ。
「待て、傷、一個残ってる!」ルクス、急に。
「え、どこ!?」ミティ、ビクッ、ルクスをキョロキョロ。
「ハハ、ここの!」ルクス、額指して、わざと変顔。「最悪の傷、ミティのキスでしか治らねえ!」
「バーカ!」ミティ、プンプン、でも素直に近づき、ルクスの額にチュッ。
「お兄ちゃん、今日は家で休んでよ。私、鶏肉買って、チキンパイ作る!」ミティ、ニコニコ。
「ダメ! 超ビッグなサプライズあんだよ!」ルクス、謎の笑み。両手で三角、ズズッと四角。「何だと思う?」
「ケーキ? ミラン菓子屋の新作?」ミティ、目キラキラ、好奇心。
「ブー! もう一ヒント!」ルクス、両手広げ、でっかい丸、ピョンピョン動物の真似。「これも!」
「うー、ムズい! ゴキブリパイとか変なやつ!?」ミティ、眉ピクン、困った顔。
「ゴキブリパイとかキモいかよ!」ルクス、両手バッテン、ドヤ顔で正解。「覚えてる? 俺たちの夢! 小さな農園買って、牛や羊飼って、葡萄やオリーブ育てて……」
「覚えてる! まさか!?」
「そう! 今日、でっかく稼いだ! もう十分! 紫の都出て、町で俺たちの農場買える!」
ルクス、興奮で発表! ミティの信じられない顔見て、満足、超ハッピー!
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「うわ! ヤバい! お兄ちゃん、サイコー!」ミティ、キャーっと飛びつき、ルクスの無傷の頬にチュッチュ!
でも、すぐ笑顔がピタッ、シュンと心配。「お兄ちゃん、この傷……その金のせい!?」
「違うよ、傷はただの事故。金とは関係ねえ。」ルクス、首振って、ミティの頭ナデナデ。「安心しろ。農場着いたら、牧羊犬飼って、チーズ作って、干し葡萄作る。夜、野原で星見ながら、馬二頭買って、川沿い散歩!」
「犬、怖い……牧羊犬はパス。」ミティ、ボソッ。
ルクス、キョトン、頷く。「そだな。」
「馬、乗れねえよ。落ちたらどうすんの?」ミティ、ルクスの真似、背伸びで頭ポンポン。
「羊に乗る!」ルクス、ニヤリ。「羊から落ちても、痛くねえだろ? 俺の白羊姫!」
「ペー! 乗らねえよ!」ミティ、舌ペロ。「紫の都出て、キレイな布いっぱい買う! 二人で新作服! このボロ紫、うんざり!」
「マジ? 俺の服、花柄はナシな!」ルクス、キリッ。「赤、好きだから、頼むぜ、ミティ縫製マスター!」
「フン、花柄、超可愛いのに!」ミティ、頬プクッ。「内側に縫うよ、お兄ちゃんしか見えない、いいよね?」
「オッケー!」ルクス、両手広げ、「妥協」受け入れ。
「やった! 美味しいの作るよ! 今夜、メイベルおばあちゃんと祝う!」ミティ、ワクワク、メニュー考え。
「ミティ、」ルクス、遮る。「まず農園見に行かね? 祝いは後でいいよ。」
「え? そんな急?」ミティ、キョトン。「メイベルおばあちゃんに言わないの?」
「う、農園、早い者勝ち。前、噂で聞いたんだ。遅れると買われちまう。メイベルおばあちゃんに手紙残して、落ち着いたら戻って会う!」
「ちょっと……」ミティ、止まり、猫が毛糸玉見るみたいに警戒、ルクスにスッと近づき、クンクン。「お兄ちゃん、嘘ついてる、でしょ?」
「ハハ、バレた。」ルクス、肩スコン、苦笑。「全部は話せねえけど、今日中に出るのが一番! めっちゃ急いで!」
ミティ、眉ピクン、心配。「メイベルおばあちゃん、大丈夫? 危なくない? 店、私しか手伝いなくて、新しい人見つかるまで……」
「メイベルおばあちゃん、平気! ポニーのボス、この通りガッチリ守ってる。誰も手出せねえ!」ルクス、安心させる。「金置いて、孤児の俺たち世話してくれた礼する!」
「そっか、」ミティ、頷く。「でも、金見たら怒るよ! 祭りの時、戻ってきて、チーズとワイン持ってく!」
「うん、後でな。」ルクス、ニコッ。「ありがと、ミティ、信じてくれて!」
「バカ! 信じるに決まってんじゃん、家族だもん!」ミティ、ニコニコ、ルクスの手ギュッ。
「うん!」ルクス、妹をガバッと抱き、互いの温かい鼓動感じた。
「準備しに出る、すぐ戻る。荷物まとめな!」ルクス、ミティをそっと押し。
「うん、お兄ちゃん、気をつけて!」ミティ、素直に頷く。
ルクス、ギシギシ古い階段下りる。彼女たちの家、三階、メイベルおばあちゃんの安い賃貸部屋。裏のキッチン、レンガのデカいオーブン、昔はメイベルおばあちゃんが料理、今はミティがシェフ。祭りは、おばあちゃん自ら豪華なご馳走。
ルクス、キッチン厳禁——彼女の「味付け才能」、ヤバすぎ。ルクス曰く「大胆な料理冒険」、誰も賛同しねえ。
キッチンの棚、油紙に包まれたパン、キッチリ並ぶ。
ルクス、店出て、「メイベルパン屋」の小さい看板見つめる。「ごめん……」誰もいないドアに、ポツリ。
未来、分かんねえ。この街の運命、もやもや。ルクス、ただ一つ、ミティを守らなきゃ! どんな代償でも、彼女たちの未来を!
ルクス、もう迷わねえ。ポニーの縄張りへズカズカ!