第24話 修練達成
夕陽が最後の光芒を収斂し、この世界に別れを告げようとしていた。
もし、一昼間しか生きられぬ命があるならば、その心境は今、闇に沈むこの空と同等だろう――光への執着と、終焉への無奈に満ちて。
ルクスは朝から今まで、簡単な朝餉以外、何も口にしていなかった。
緑茵訓練場では、水しか提供されず。
今、ルクスは空腹に耐えかね、身体は酸痛に苛まれていた。
突如、体内を緩慢に巡っていた魔力の細流が、一瞬にして加速し、集結し、完全な循環を成した。
直後、言い表せぬ灼熱の力が体内から迸り、全身を覆った。
飢餓も疲労も、この炎の如く燃える魔力に焼き尽くされ、灰と化した。
ルクスの精神は昂揚し、全身に血の如く炽烈な赤紅の光芒が広がる。
それは、ルクス固有の魔力の色だった。
「即刻、魔力を体内に収めろ! 魔力を全て使い果たし、泥の如く倒れるつもりでなければ、早くしろ!」
ルクスが魔力解放の感覚に浸る中、馴染みの小石が頭に命中した。
ルクスは我に返り、エミリーの指示通り、体表の魔力を体内に収めた。
同時に、彼女は気づいた。先の爆発を経て、「魔力解放」の制御が格段に熟練したのだ。
次は、もっと迅く解放できる。
「良い。次、訓練剣を取れ。」
魔力解放の修練中、邪魔な木剣を地面に投げ捨てていた。ルクスはそれを拾い上げた。
「今、剣を持つ手首から魔力を解放しろ。そして、その魔力を手環の如く手首に纏わせろ。」エミリーの言葉と同時に、小石が弧を描き、ルクスの右腕に精准に命中した。
今度、ルクスは確信した。小石には魔力が宿っていた。
命中時、微かな水紋の如き青い光芒が閃き、即座に消えた。
その時、訓練場外の中心花壇から、魔音装置の音楽が響いた。
ルクスは音に振り返り、エミリーを見た。
エミリーは腕を組み、右手の指先に小石を挟んで立っていた。
『朝から夕暮れの音楽までを一日と数えるわけじゃないんだな、精霊って……』ルクスは一瞬、安堵した。だが、次の刹那、小石が無慈悲に頭に当たった。
「精神を研ぎ澄ませ、ぼんやりするな。手首に纏った魔力を広げ、剣の柄も共に包め。」
エミリーは独特の「小石教授法」を続けた。
ルクスが手首の魔力光環を広げ、剣の柄を包むと、右手に激しい脹痛が走った。
「良い。今、その魔力を剣身に這わせろ。藤の如く、回転しながら絡みつき、上へ登れ。」
ルクスの赤紅の魔力は、緩慢に這う紅蛇の如く、平凡な訓練木剣を絡み始めた。
長い時間が過ぎた。魔力の蛇が剣身の四分の一に達した時、空はすっかり闇に沈んだ。
蛇はなお、緩やかに登り続ける……
「今だ! 余分な魔力を全て振り払え。剣身に絡む魔力を剣先に噴出させ、圧縮し、凝縮し、剣全体を完全に纏え!」
小石が飛ぶ前に、ルクスは全神経を集中し、剣身の魔力を爆発させた。
赤紅の魔力が木剣を呑み込んだ。
直後、ルクスは魔力を猛烈に圧縮した。
瞬く間、訓練木剣は赤い光芒に包まれ、血河から引き抜かれた魔剣の如く輝いた。
ルクスが歓声を上げる間もなく、エミリーが動いた。
彼女は一躍、ルクス身後の武器架に飛び、木剣を抜いた。青い魔力が柄から迸り、薄絹の如く剣を纏う。
青い剣光がルクスを突いた。
ルクスは本能的に魔力の木剣を掲げ、受け止めた。
「鏗――!」
赤紅と青緑の魔力が空中で激突し、金鉄の鳴る轟音を放った。
ルクスは剣から伝わる巨力に弾かれ、訓練場の木壁に叩きつけられた。
「ドン!」と鈍い音が響き、彼女は壁を滑り落ち、地面にへたり込んだ。
エミリーは衝突の刹那、足先で軽く地面を蹴り、力を卸して穩然と立った。
彼女は顔を上げ、地面に座り込むルクスを見下ろした。
「合格だ。」
そう告げ、エミリーは訓練室の隅に置かれた包みを手に取り、ルクスに投げた。
「中は『輔佐傭兵』の身分を証明する徽章と晶盤だ。晶盤には500貢献点が入ってる。私の貸しだ。次の任務の報酬から引く。これでまともな鎧と武器を買え。」
「最後、明後日の任務だ。朝、城門で集合。」エミリーはそう言い残し、踵を返して去った。
ルクスは、この「小石修練」の一日を終え、まるで競馬を走り抜き、荷車を引いた馬の如く疲弊していた。
今、彼女は床に倒れ込み、動きたくなかった。
『あのボロ招待所には戻らん……今夜はここで寝る……』ルクスは目を細め、睡魔に襲われた。
そして、遠ざかるエミリーを眺め、心で呟いた。
『ほんと……ひねくれて変な女だな……でも……ありがとう。』
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